本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
国際俳優、保険外交員、私立探偵、下足番……。横綱男女ノ川、引退後の職業遍歴

国際俳優、保険外交員、私立探偵、下足番……。横綱男女ノ川、引退後の職業遍歴

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 第三十四代横綱、男女ノ川登三(みなのがわとうぞう)は、明治三十六年(一九〇三年)、茨城県筑波郡(現つくば市)に生まれる。本名・坂田供次郎。地元の相撲大会に出場していきなり優勝。怪力を認められて力士を志すようになり、高砂部屋に入門した。

 しこ名は出身地を詠んだ百人一首の「筑波嶺(ね)の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる」(陽成院)の歌にちなんで、男女ノ川とした。

 大正十三年(一九二四年)初土俵。昭和二年(一九二七年)十両昇進。翌年、新入幕を果たした。昭和四年、「朝潮」を名乗り、人気を博した。

 しかし、昭和七年、日本相撲協会の改革を訴え、天竜関をリーダーとした春秋園事件が勃発。協会は分裂騒動に陥った。朝潮もこれに同調して、協会を一時脱退。怒った高砂親方は、朝潮のしこ名をはく奪、このため男女ノ川に戻すこととなった。協会復帰後、幕内格となり十一勝無敗で全勝優勝を飾る。昭和九年、大関に昇進、そして昭和十一年五月場所で念願の横綱昇進を果たした。ところが昭和十三年五月場所で、六勝七敗と皆勤負け越しという前代未聞の不名誉な記録を残し、「史上最弱の横綱」とまで呼ばれるようになった。昭和十七年引退。日本相撲協会理事に就任したが、昭和二十年廃業。

 戦後、請われてジョン・ウェイン主演の「タウンゼント・ハリス物語」(二十世紀フォックス社・邦題「黒船」)に「大男」役で出演し、ハリウッドデビューを果たした。ジョン・ウェイン相手に派手な大立ち回りを演じる役柄だった。

〈これが及第なら、フォックス社ばかりでなく、日本映画でも出てくれといってくるかもしれない。まだこないけれど。もしいってきたらば、これからは役者のほうもドンドンやろうと思っている。泥棒でも強盗でも、なんでもやる。ホンモノではないんだから、強盗だっていいわけだ。一番ラクな役は殿様だそうだが、ボクのところにはあまりそういう役はこないだろうと思うんだ〉(「漫画讀本」昭和三十三年四月号「国際俳優になった『大男』」より)

 しかし、役者稼業も思い通りにはいかず、写真にあるとおり、保険の外交員(昭和三十四年撮影)や金融業、私立探偵までこなし、晩年はタニマチが経営する武蔵村山市の料亭で下足番を勤めて過ごした。昭和四十六年没。

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る