2015.12.24 書評

於祢、淀君、お江、赤穂義士。鏡が映し出す、時代を彩った人々の心の綾

文: 清原 康正 (文芸評論家)

『ぎやまん物語』 (北原亞以子 著)

『ぎやまん物語』 (北原亞以子 著)

 本書『ぎやまん物語』は、南蛮渡来のぎやまんの手鏡という一つの“モノ”を物語の円心部に置くことで、それを手にした者たちの人生模様と移り行く壮大な時の流れを描き出した連作長編で、北原作品の中では大変に異色な作品である。

 一つの“モノ”が人から人へ、時代を越えて受け継がれていくさまを描き出すことで、時代状況のありようを浮かび上がらせる手法は、時代小説にも結構数多く存在する。一振りの刀剣をめぐる争奪戦などがその典型なのだが、本書ではそれが、主として女性が手にする手鏡であり、しかも物語の語り手に設定されているところに大きな特色がある。南蛮渡来の手鏡である「私」が、自分を覗き込む者の容貌と表情だけでなく、その内面をも映し出して語り出すところが魅力となっている。

 その手鏡はポルトガル人宣教師から時の関白・羽柴秀吉(はしばひでよし)に献上されたもので、秀吉の正室・於祢(おね)や愛妾・お茶々を経てさまざまな者たちの手に渡っていくこととなる。物語の語り手である擬人化された手鏡を通して、秀吉の時代から江戸・幕末期までの歴史の流れを展望していく面白さがある。時代潮流の切り取り方と解釈は、作者の歴史観に基づくものであることはいうまでもない。

 この連作長編は、平成二十五年(二〇一三年)三月十二日に七十五歳で急逝した作者が、「オール讀物」に平成十一年十二月号から二十一年五月号まで足かけ十一年間も書き継いだ作品である。平成二十六年二月に文藝春秋から刊行された初版には十三編の物語に加えて、「まえがきに代えて〜『ぎやまんの鏡』との出会い」(平成十二年十二月号)と「あとがきに代えて~ぎやまん身の上物語」(平成二十五年十二月号)が並録されていた。

 今回の文庫化では、四編の単行本未収録作品を加えたことで『ぎやまん物語』『続・ぎやまん物語』と二分冊の構成、収録作品は計十七編となった。初版にあった「まえがき」と「あとがき」の章は外された。「まえがきに代えて」に記されていた作者の意図を探る前に、作者のプロフィールを紹介しておこう。

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ぎやまん物語
北原亞以子・著

定価:本体650円+税 発売日:2015年12月04日

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