- 2016.06.16
- インタビュー・対談
ゲバラの決定版を書こうと思い、現在はこの作品群に専念しています
「本の話」編集部
『ポーラースター ゲバラ覚醒』 (海堂尊 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――これまで海堂さんは、『チーム・バチスタの栄光』など、医療エンタテインメントを中心に書かれてきましたが、新刊は革命家チェ・ゲバラが主人公。意表を突かれた読者も多いと思います。
「ぼんやりとですが、ゲバラのことは、いつか書こうと思っていました。私は世界史が好きで、特に、チャーチル(元英国首相)、ナセル(元エジプト大統領)、趙匡胤(宋の元皇帝)らと並んで、ゲバラに共感を覚えていましたから。独自のスタンスで社会と対峙した人物に興味がわくんです。
実際に執筆が具体化したのは、4年前にNHKの番組で、キューバを旅したのがきっかけでした。この時のことを短編に書いて、行けそうだ、と手ごたえを感じた。『桜宮サーガ』シリーズの執筆がちょうど一段落する時期でもあったので、一昨年、中米7カ国を回るなど取材を続けてきました」
――本書では、フィアンセとのアバンチュールや、のちにアルゼンチンの大統領となるペロンとその妻エビータとの交流、友人との南米縦断バイク旅行など、ゲバラの青春の日々が描かれます。
「史実に基づきつつも、『こんなことをしていたら面白いな』と思い描きながら小説にしました。フィクションですが、ゲバラの実像には近いと思います。ゲバラは自伝で、自分をかなりストイックに描写していますが、本当は、この小説のゲバラのように、真っすぐで純粋だけど、いい加減で女に弱かったのではないでしょうか」
――巻末には130冊近い参考文献が載っています。膨大な資料を読み込まれたんですね。
「私は医師ですので、医療界の物語を考えるときは、あまり取材しなくても取り敢えず書けました。もちろん仕上げの時は取材しましたが。でも、ゲバラに関しては、たとえれば、医学部1年生の医療知識レベルくらいしかなかったと思います。ですから、片っ端から関連書を読み漁りました。執筆を始めてからも、散歩がてら週に2、3回は神保町や早稲田の古本屋を回りました。情報がそのたびにアップデートされるので、『オール讀物』に連載されていたものにだいぶ手を加えましたし、書籍のゲラも、締切ギリギリまで直していました。結構小心者なので、いつ担当編集者が怒り出すかと、内心ヒヤヒヤでした(笑)」
――この『ゲバラ覚醒』のあと、さらに3冊が刊行され、四部作の大長編となります。
「来年夏にゲバラが中米を旅する第二部、再来年にカストロが主人公の第三部、2019年にキューバ革命の成功から最期までの第四部を出す予定です。四部まで読み通していただくと、なぜ南米の英雄の物語に、『ポーラースター』というタイトルを付けたかがお分かりいただけると思います。
ゲバラの決定版を書き上げたいと思い、1年ほど前から、ほぼゲバラに関する作品群に集中して執筆しているので、たまに文庫化の直しをしたりすると、タイムスリップしたような気分になるくらいです。四六時中、ゲバラと向き合う毎日を過ごしているんです。気が付いたら何も食べずに、12時間続けてパソコンに向かっていたなんてこともありました。いまでも古本屋通いを続けているので、新たな情報も入ってくる。周りからは『四部作なんて大変ですね』と言われますが、このままでは、十部作くらいに膨らんでしまうのではないか、と心配です(笑)」
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