――溝口さんは、暴力団など反社会勢力取材の第一人者として知られています。新刊『詐欺の帝王』では、オレオレ詐欺など、いわゆるシステム詐欺の実態を暴いていますね。
溝口 最初はオレオレ詐欺も含めて、裏社会の人間がどのようにカネを稼いでいるのか、現在のシノギにはどんな種類があるのか、について取材していました。その過程で、「オレオレ詐欺の帝王」といわれた本藤彰(仮名)という男を紹介されたのです。最初は数ある取材対象の1人と思っていましたが、「帝王」と畏れられただけあって、彼が率いたグループの業態は、オレオレ詐欺のほかに、未公開株詐欺、社債詐欺、イラク・ディナール詐欺など、詐欺のデパートといっていいほど多岐にわたっていた。いまだ被害件数が増え続けているシステム詐欺への対策を講じるためにも、本藤の半生を全編的に紹介することには、意味があると考えたのです。
――本藤について、〈一七八センチと背が高く、弁舌はさわやか。暴力臭はまったくない〉と書かれていますね。犯罪者には見えないタイプ?
溝口 ええ。頭が非常に切れ、カタギのどんな仕事でもこなしたと思いますね。裏社会の有名人なのに、逮捕されたことがないのも、かなり周到に対策を練ってきたからでしょう。
オレオレ詐欺、ディナール詐欺
――本藤が詐欺に手を染める端緒は、20年ほど前にブームとなった大学イベントサークルまで遡る。集団強姦事件を起こした早大のイベントサークル、スーパー・フリーのケツモチもしていたんですね。
溝口 学生時代に、スーフリの主宰者・和田真一郎(準強姦罪で懲役14年の実刑判決を受け服役中)に頼まれて、ディスコ・パーティのために六本木のヴェルファーレを押さえる段取りをつけたりしていました。ある意味、そこが原点ともいえます。というのも、本藤は大学卒業後、大手広告代理店に就職しますが、スーフリ事件が起きると会社から関与を疑われ、子会社に左遷されてしまう。それに嫌気が差して退職したことで、本格的な詐欺人生がはじまるのです。
まずヤミ金を開業したのち、04年頃からオレオレ詐欺をはじめます。本藤は創始者ではありませんが、オレオレ詐欺草創期に暗躍した1人です。そこから様々な詐欺に手を広げた末に、本藤が閃いたのが、イラク・ディナール詐欺でした。イラクの通貨ディナールが、日本では両替されていないことに目を付け、イラクで大量にディナール紙幣を仕入れ、価値が上がるかのようにセールストークをして、彼曰く「持ち金をもっと増やしたいという欲の皮の突っ張った小金持ち」に投資を募ったのです。これは詐欺業界の一大ブームとなり、本藤は巨万の富を手にしました。いわば詐欺業界の頂点を極めたのです。
――そんな彼が、自らの過去を話す気になったのはなぜなのでしょう。
溝口 4年ほど前、暴力団の元組長に貸したカネをめぐるトラブルから、本藤は改造銃で足首を撃たれます。弾が骨に当たってから向きを変え、跳ね回ったために足首中の血管がズタズタに切り裂かれた。その影響が内臓にもおよび、胆嚢と肝臓の一部を切除するなど、入退院を繰り返すようになった。「潮時」と感じた本藤は詐欺商売から足を洗いました。
実はいま、彼は儲けなしで、多重債務者を福島の除染作業に派遣する仕事をしています。こんなボランティアをするのも、私に赤裸々に語ったのも、彼からすれば「罪滅ぼしの気持ちから」なのだそうです。私としてもこの本が、詐欺被害者を減らす一助となれば、と切に願っています。
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