2015.11.29 書評

「歴史を知らない指導者は危険です」。池上彰がイスラム国の起源から説き明かす。

文: 池上 彰 (ジャーナリスト・東京工業大学教授)

『学校では教えない「社会人のための現代史」 池上彰教授の東工大講義 国際篇』 (池上彰 著)

『学校では教えない「社会人のための現代史」 池上彰教授の東工大講義 国際篇』 (池上彰 著)

 この本は、私が東京工業大学リベラルアーツセンターで教えてきた講義内容を三部作にまとめたシリーズの最後です。今回は、「現代世界を知るために」と題した講義を元にしています。

 東京工業大学の理系の学生たちに、現代史を知ってもらおうというのが目的の講義です。理系の学生たちの中には、中学や高校時代に歴史を暗記科目だと誤解。すっかり嫌いになってしまったというケースが多いのです。

 しかし、歴史は暗記物ではありません。ある出来事が発生したことによって、次の出来事が生まれ、それがさらに次の展開につながっていく。因果関係を辿っていく学問なのです。そう考えれば、論理的な思考力に優れた東工大生にも、理解してもらえるはずです。

 東工大での講義内容は、毎週日本経済新聞に連載され、それを元に文藝春秋から本になりました。日本経済新聞に連載中は、多くの社会人読者からも支持をいただきました。現役の社会人たちも、現代史を知りたがっていたのです。かくして、この本は『学校では教えない「社会人のための現代史」』という題名になりました。大学での講義が元になっていますが、社会人のお役に立つと思うのです。

 現代史は、いまのニュースに直結することばかりです。たとえば、自称「イスラム国」の出現は、中東をめぐる数々の歴史の結果です。「イスラム国」のことを知るには、その少し前にさかのぼらなければなりませんし、少し前の歴史を知っていれば、「イスラム国」の存在が理解できます。

 この本の元になっている東工大の講義の時点では、「イスラム国」はまだ出現していませんでした。このため、本文では触れていません。そこで、文庫版あとがきで、「イスラム国」について取り上げます。歴史を知るといまが理解できると私が言う意味がわかっていただけるはずです。

 

 自称「イスラム国」出現のきっかけになったのは、2003年に起きたアメリカによるイラク攻撃でした。

 当時のブッシュ大統領(息子のブッシュ)は、イラクのフセイン大統領が大量破壊兵器を隠し持っているとして、イラクを攻撃しました。大量破壊兵器がイスラム過激派の手に渡るのを防ぐというのが建前の目的でした。しかし大量破壊兵器は存在しませんでした。実際には、イラクの石油が欲しかったのと、父親(パパ・ブッシュ)を暗殺しようとしたフセイン大統領は許せないという息子の個人的な恨みもありました。

 では、なぜパパ・ブッシュは命を狙われたのか。その遠因になったのは、1990年に起きた「湾岸危機」でした。

 東西冷戦中は、アメリカとソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)が睨み合う中で、周辺の国は、うっかりした行動が取れませんでした。しかし、冷戦が終わったことで、新たな国際秩序を作り出そうと考えたイラクのフセイン大統領は、隣国クウェートを侵略。石油産出国で豊かなクウェートを自国の領土に組み込むことで、強大なイラクを建設しようと目論んだのです。

 ところが、フセイン大統領の思惑通りにはいきませんでした。当時のアメリカのジョージ・H・W・ブッシュ(パパ・ブッシュ)大統領は、これを許さず、世界各国に働きかけて、多国籍軍を結成。翌年1月、イラクを攻撃して、イラク軍をクウェートから撃退しました。

 この結果、野望を打ち砕かれたフセイン大統領は、ブッシュ大統領の引退後、本人の暗殺を計画したのです。計画は失敗し、これを知った息子の大統領は、仕返しを試みたというわけです。

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学校では教えない「社会人のための現代史」
池上彰教授の東工大講義 国際篇

池上彰・著

定価:本体510円+税 発売日:2015年11月10日

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