今野作品ファンにはお馴染みの、警視庁公安部シリーズ第四弾である。前作『凍土の密約』で、戦中の米ソの密約を背景にした壮大なスケールの殺人事件捜査に携わり、大活躍した外事一課の倉島達夫が、「ゼロ」の研修から戻ってきたところから物語は始まる。 「ゼロ」とは、かつて「サクラ」や「チヨダ」と呼ばれた、警察庁警備局警備企画課の中にある情報分析室の現在の通称で、公安情報が集約されるまさに中枢部署。つまり、倉島は順調に出世を遂げているのだ。
「倉島はこれまで下っ端だったのが、今回、部下を使う立場になります。『事なかれ主義』の情けないヤツだったんですが、頼もしくなってきました」
大手新聞社の編集幹部・津久見茂が転落死したニュースを聞いた後、倉島は登庁する。そして登庁早々、公総課長に呼ばれた倉島は、同僚のエース公安マン・葉山昇の行動を洗う、という不可解なオペレーションを命じられる。また、片桐(そつのない優秀なタイプ)と伊藤(寡黙で秘密主義的な、公安マンらしいタイプ)という補佐を二人つけるので、一定期間後、うち一人を部下として選べと言われる。それら全ての理由は、公総課長の口からは語られない。
倉島は部下に運転をさせ、一流レストランで情報交換をする。エース級の公安マンは、調査に金を遣い、工作のためには時に女も抱くのだ。
前作では銃撃戦や格闘シーンもあったが、今作の捜査では密室劇や尾行調査などが主だ。
「公安の動きは、表面に出てきたらアウトで、一日中尾行して何もないことが仕事として最高になるわけです。潜伏している捜査員を含めれば、公安の人員は実際には三倍いる、と一説に言われる所以です(笑)」
葉山の調査はやがて、津久見の死や、倉島のロシア人脈へと
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