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藤原正彦 vs. お茶の水女子大生<br />名物ゼミを誌上再現

藤原正彦 vs. お茶の水女子大生
名物ゼミを誌上再現

文:幸脇 啓子 (編集者)

『名著講義』 (藤原正彦 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #ノンジャンル

 たとえば『武士道』を読んで「妻が夫に服従するなんておかしいのでは?」と疑問を持った学生に、藤原先生は「では、夫に奉仕することを求められていた女性は今より不幸だったと思いますか?」と尋ね、「日本の伝統や美意識を見つめなおすことはきわめて大切です。看護婦という言葉を捨て看護師に統一しましたが、馬鹿げたことです。私なんて、入院するたびにやさしい看護婦さんを愛しそうになりますよ」と、ユーモアを交えながら、学生が囚われてきた価値観を問い直します。実学を推奨する『学問のすゝめ』に「文学の大切さを認めてほしかった」と嘆く学生に同意しながらも、「読書では、本が書かれた時代を頭に入れて、本そのものを見直す視点が重要です」と説きます。『山びこ学校』に載っている貧しい農村の子どもの作文を読んで「辛い現実に文句を言い、大人たちを恨んだりしてもおかしくないのに、真剣に貧乏から抜け出そうと考えていてすごい」と感動する学生には、「今の日本に不満は充満していても、疑問を持ち考えている人はごくわずかです。誰もがみなイライラして腹が立っているのに、本質的なことは誰も問おうとしません」と、本を手がかりに現代社会への警鐘を鳴らします。

 回を重ねるごとに学生と藤原先生との結びつきは強まり、ゼミの一体感は増していくばかり。時には「嫁いだら、私は実家に戻らないくらいの覚悟で相手に尽くしたい」という「明治の女」志願者や、「世の中の男と同じように、先生も結婚してしばらくたつと奥さんにやさしくなくなるんですか?」と、藤原先生の目を白黒させる学生も登場しました。

『名著講義』を読むと、そんな楽しいゼミのやり取りを追いながら、名著の本質が自然と頭に入ってくるはずです。改めて読書の楽しさを再発見するいい機会かもしれません。4年前に18歳だった学生の何人かは、この春から社会人として働いています。月日の経つのは、本当に早いもの。それでもこの本の1ページ目をめくれば、いつでも新学期の教室が待ち受けている気がします。皆さんも、藤原先生の「読書ゼミ」を受けてみませんか?

名著講義
藤原正彦・著

定価:620円(税込) 発売日:2012年05月10日

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