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美の追究の果てにあるもの

美の追究の果てにあるもの

「本の話」編集部

『テティスの逆鱗』 (唯川恵 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

──多岐江の場合は、不倫の恋が始まりかけたことも影響していますね。しかし相手を性的に落胆させないために受けた手術のせいで、かえって皮肉な結果を迎えることになりますが……。

唯川  確かに多岐江の場合は男が絡んでから、さらに美容整形にはまったように見えます。でも実は彼女がはまったのは「なくしたものを取り戻す」ことだったのかもしれません。かつては優等生でよく褒められていたのに、社会に出たら誰も褒めてはくれないし、子供を産んだら夫は求めて来なくなった。そんな多岐江にとって、不倫ではあるけど新しい恋を成就させることは、なくしたものを取り戻す手段のひとつだったと思います。「好きだ」と言われることは、褒められることにとてもよく似ていますからね。でも多岐江はただ恋に落ちればよかったところを、美容整形という「予習」と「準備」をしてしまった……これはかつての優等生の悲劇なのかもしれません。

──キャバクラ嬢の莉子(りこ・21)と資産家令嬢の涼香(すずか・29)の事情はまた異なりますね。莉子は郷里で苛められ蔑まれた過去に復讐し、東京で「いい男」をつかまえるため、涼香は独自の美の追究と、亡くなった母親と自分が似ることを許さぬために整形を繰り返しています。

唯川  自分をひどい目に遭わせた男に対して、変身して復讐しようと思うことは、全ての女性が必ず考えることです(笑)。莉子はそれを雄太に対して実行したわけですね。

──かつて郷里でひどく苛められた相手だとはいえ、莉子が雄太を弄ぶ姿は怖ろしいものがありました。美しくなった自分に気を持たせるだけ持たせて、最後の最後でそれを翻す。そしてそれを繰り返す。その一方で、やっと見つけた裕福な「いい男」の高夫を、聖人のような言葉で口説こうとする……。男に対してほぼ同時にここまで違う態度をとれるものかと、読んでいて戦慄しました。

唯川  莉子の雄太に対する態度と、高夫に対する態度は、表と裏というようなものではなく、どちらも本気だと思います。対する相手によって莉子はひどく残酷にもなれば善人にもなる。でももし莉子が最初から可愛らしく生れていて、整形する必要もない「そのまま」の姿で成長していたのなら、その本気のかたちも違うものになっていたかもしれませんが。

テティスの逆鱗
唯川 恵・著

定価:1600円(税込) 発売日:2010年11月13日

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