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「料理学校を出ていない」小林カツ代の強み

「料理学校を出ていない」小林カツ代の強み

文・写真:「文藝春秋」写真資料部


ジャンル : #ノンフィクション

 肉じゃが、野菜炒め、唐揚げ、ポテトサラダ、ブリ大根、アジフライ。

 今ならコンビニですべて揃うメニューだが、これらを「家庭料理」として、昭和三十年代以降の日本全国に定着させたのが小林カツ代と言えよう。

 昭和十二年(一九三七年)大阪市生まれ。実家は製菓材料の卸問屋で、小さい頃から家でも外でも美味しいものを食べて育った。ピアノや日本舞踊を習い、絵画が好きで、漫画家になるのが夢だったという。帝塚山学院短期大学の国文学専攻を卒業し、程なく結婚。

 家で日々の料理をした経験がなく、結婚後初めて味噌汁を作ったとき、出汁をとることも知らなかったことは有名だ。そこから努力して、自分で料理の腕を磨く。

 あるとき、昼のテレビを見ていて、何か物足りないと感じ、番組で料理をやったらいいのでは、と思いついて投書してみたところ、そのまま出演することに。料理の詳細よりも、持ち前の明るさとズッコケで観客を爆笑させ、なごませて以来、テレビ料理番組の第一人者となり、「きょうの料理」から「料理の鉄人」まで幅広い人気を保った。

 料理本やエッセイの著者としても、飾らない文体と読者の好みをつかむセンスのよさで、二百冊以上の著作を誇る。

 プロや好事家のためではなく、忙しい主婦のための料理を考え、作る人の都合や、世の中の変化に順応しつつ、それでも家庭で料理を作ることを提唱したところが、「料理学校を出ていない」彼女の強みでもある。

「食べるだけで精一杯」だった戦後を脱した後、「コンビニのおでんや弁当」が日々の夕飯になる前、人々が「日常の家庭で美味しいもの」を欲し、テレビや本がそれに応えた時代の寵児だった。

 写真は平成十五年(二〇〇三年)に月刊「文藝春秋」のために撮影された一枚。

 離婚や長男の交通事故などの不幸を背負いつつも、持ち前の明るさとバイタリティを失わず、多方面で活動し続けていたが、平成十七年にクモ膜下出血で倒れ、平成二十六年一月に七十六歳で他界した。

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