2016.07.20 書評

作家デビュー25周年。あらためて再評価されるべき、真保裕一の名作復刊。

文: 西上 心太 (文芸評論家)

『ストロボ』 (真保裕一 著)

『ストロボ』 (真保裕一 著)

 元食品衛生監視員が食品輸入にからんだ犯罪を追う『連鎖』によって、真保裕一が第三十七回江戸川乱歩賞を受賞したのは、一九九一年のことだった。前年にも初の応募作品が最終選考に残っており、二度目の応募で受賞してデビューを果たしたのである。

 今年、二〇一六年は真保裕一の作家デビュー二十五周年という記念の年にあたる。時の流れは早いものである。

 江戸川乱歩賞が公募の新人賞になったのは一九五七年の第三回からだが、受賞作や作者が社会的な話題になることはもちろん、後進に大きな影響を与えてきたことは歴史が証明している。

 公募になって初の受賞者が『猫は知っていた』の仁木悦子だった。明るい性格の兄妹が協力して謎を解くという、ドメスティックミステリーの先駆けとなるストーリーに加え、作者が長く療養生活を送っている若い女性という背景もあいまって、ベストセラーを記録するとともに大きな話題を呼んだ。

 第十五回(一九六九年)の受賞作『高層の死角』で、森村誠一は密室殺人の舞台に高層ホテルを選び、古典的な道具立てのミステリーに新風を吹きこんだ。森村はその後も国際航空路線や新幹線など最先端の交通機関を舞台に、高度成長時代の歪みをモチーフにした社会派本格ミステリーを矢継ぎ早に上梓し、時代を画する作家へと駆け抜けていった。

 第十九回(一九七三年)の小峰元『アルキメデスは手を汚さない』は、乱歩賞初の学園ミステリーで、多くの若い読者の人気を集め、累計百万部を超そうかという売れ行きを記録した。なによりも、当時高校生で小説を読む習慣がなかった東野圭吾が、この作品を読んだことがきっかけで、小説を書き始めたというエピソードは有名である。後年、東野圭吾が『放課後』で第三十一回(一九八五年)の受賞者となったことはいうまでもない。

 ぐっと時代が下がって『天使のナイフ』で第五十一回(二〇〇五年)の受賞者となった薬丸岳も、たまたま手に取った第四十七回(二〇〇一年)受賞作の高野和明『13階段』を読んで、乱歩賞を目指したと語っている。

 わたしがリアルタイムで乱歩賞を読むようになってすでに四十年近くになるが、最近の作品を除いて、一読して印象に残った受賞作が二つある。一つが第二十八回(一九八二年)の岡嶋二人『焦茶色のパステル』である。国産ミステリーの一部に感じていた野暮ったさがなく、スピーディで小粋なミステリーがついに現れたかと、翻訳ミステリーに親しんでいた当時のわたしは思ったものだ。

 そしてもう一作が真保裕一の『連鎖』だった。「社会派とハードボイルド派を融合させた作風の受賞作はこれまでなかった」という選考委員の逢坂剛の選評にもあるように、一人称一視点で物語が進んでいく。取材の深さと食品衛生監視員というユニークな職業の設定に目を奪われがちだが、真保自身が私淑しているディック・フランシスの競馬シリーズの主人公のように、権力の圧力に屈しない克己心の強い主人公が、困難に打ち克つ姿に心を惹かれたのである。

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ストロボ
真保裕一・著

定価:本体740円+税 発売日:2016年07月08日

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