どうにも新しいものが苦手である。
そもそも「新」という漢字の偏は「木を刃物で切り倒すこと」、旁は「斧」を指し、斧で切り倒された木の断面の生々しい様から「新しい」という意味になったという。成り立ちからして暴力的な概念なのである。世間で新しい、新しいと持て囃されているものを見ると、それが今にも斧を振り上げて襲いかかってくるような気がして怖じ気付いてしまう。もちろん今流行りのドローンもその一つである。
この度連載させていただく『ドローン探偵』は、私のデビュー作『○○○○○○○○殺人事件』と同じく、冒頭に読者への挑戦状が設けられている。そこでドローンのパブリックイメージを「プロペラがたくさん付いた、何となく怪しげな、ラジコンヘリ」と書いたが、これはそのまま私の心証でもある。だからドローンのことを「何となく怪しげ」だと思い、『ドローン探偵』というタイトルにも忌避感を抱いた方々は、どうかご安心いただきたい。私はあなた方の側に立っている。
そんな私がどうしてドローンを題材にするに至ったのか。それは、人間は適応していかなければならないからである。斧から逃げるのではない。受け止め方を考えよ。その時生まれる断面が「新しい」ということである。
新しいものを受け入れるには、それを既知の事項に当てはめてしまえばいい。本格ミステリを長らく愛読してきた私にとって――あるいはあなたにとっても――既知の事項とは「館」である。本作のドローンが活躍する舞台は、廃墟と化した洋館。そこで見える景色は? ぜひご自身の目でお確かめいただきたい。
「別冊文藝春秋 電子版8号」より連載開始