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特定秘密保護法の意味を考えさせる書

特定秘密保護法の意味を考えさせる書

文:山田 侑平 (元共同通信記者 人間総合科学大学名誉教授)

『FBI秘録 その誕生から今日まで 上下』(ティム・ワイナー 著 山田侑平 訳)


ジャンル : #ノンフィクション

 ひとつだけ変わらないのは盗聴と不法侵入を柱とするFBIの捜査手法である。たとえ大統領の承認によるものであっても、米国憲法からすればそれが違法であることに変わりはなく、事実、違法判決を下されてきた。著者は「まえがき」で、テロリストとの戦いの「指揮官は――大統領も司法長官もFBI長官も同じように――国家安全保障の名において自分たちの権力を行使し、濫用してきた」と断定する。そして違法な秘密監視を命じたブッシュ大統領に抵抗して辞任を申し出たロバート・モラーFBI長官の警告――「われわれが自由を失うならば、テロリズムとの戦いに勝てないだろう」を引用しながら、米国民が安全と自由の両方を確保できる可能性はまだ残っているだろうか、と読者に問いかける。これが本書の最大のテーマかもしれない。

 2013年6月に米国家安全保障局(NSA)の契約企業元職員、エドワード・スノーデンが持ち出した大量の機密文書によって、NSAとFBIがマイクロソフト、ヤフー、グーグルなど米主要インターネット会社九社の中央サーバーから、顧客の音声・映像チャット、写真、eメール、文書、接続記録などを直接引き出していることが暴露された。香港に姿を現わしたスノーデンは、こうした国民監視プログラムを明るみに出したのは「この政策が正しいか間違っているかを国民に判断してもらう必要」があったからだ、と述べた。米国ではこの機密漏洩への非難が聞かれる一方、スノーデンの告発を支持し、国家による大規模な個人情報収集の動きに抗議する声も高まっている。日本では一部メディアがスノーデンを「元CIA職員」と呼んでいるため、NSAはCIAの一環のように受け止められがちであるが、本書が詳しく取り上げているように、CIAはその「いい加減なやり方」の故に敬遠され、FBIがNSAと組んで仕事をしていたのである。

 ワイナーは2013年6月26日、ブルームバーグ通信に寄稿し、告発の趣旨を貫くつもりなら裏切った国から逃げ出すスパイのように行動するのではなく、勇気をもって帰国して「法律に基づいて法廷で戦う」ようスノーデンに呼びかけた。彼はスノーデンが中国に逃げ、次いでロシアに逃げ、果ては言論と報道の自由に関して西半球最悪の記録をもつエクアドルへの亡命を考えたことについて、なぜ「抑圧の砦」に避難しようとするのか、となじった。

国家に監視されない権利

 本書のテーマである安全と自由との兼ね合いに戻ると、大統領候補当時のオバマは、市民的自由を侵害する現政府のやり方は安全保障を強化するものではない、とブッシュ大統領のテロ対策を批判し、市民的自由を守りながらテロリストと戦えない理由はない、といいきっていた。というのも、ブッシュは9.11の同時多発テロのあと、ルーズヴェルトが日本の真珠湾攻撃に伴って認めたのとほぼ同様な権限をFBIに与えていたからだ。しかし、ブッシュの報道官だったアリ・フライシャーは今回明らかになった事態について、前政府の反テロリズム政策を憲法違反だと批判して大統領になった人物が自らそれを真似ているのはブッシュが新たな任期を務めているようなものだ、と皮肉っている。

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FBI秘録 上
ティム・ワイナー 著 山田侑平・訳

定価:1,800円+税 発売日:2014年02月17日

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FBI秘録 下
ティム・ワイナー 著 山田侑平・訳

定価:1,800円+税 発売日:2014年02月17日

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