インタビュー・対談

公開対談
綿矢りさ×道尾秀介
小説家は幸福な職業か?

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL(別册文藝春秋 2014年5月号より)

公開対談<br />綿矢りさ×道尾秀介<br />小説家は幸福な職業か?

第150回を迎えた芥川賞・直木賞を記念して行われたフェスティバルでスペシャル対談が実現! 普段から親交のある綿矢りさ・道尾秀介の二人が、賞の垣根を越えて語り合った「小説家」という職業の醍醐味とは――

小説家は自由な職業?

道尾 2日前に面白いものを見たんです。サンドアートって知ってます? 砂の芸術。

綿矢りさわたや りさ 1984年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。2001年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。04年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞を受賞。12年『かわいそうだね?』で第6回大江健三郎賞を受賞。他の著書に『夢を与える』『勝手にふるえてろ』『ひらいて』『しょうがの味は熱い』『憤死』『大地のゲーム』がある。

綿矢 砂で絵を描く?

道尾 そう。下からライトを当てたガラスの上に砂で次々に絵を描いて、音楽に合わせてストーリーが進行していく。もう、ぼろぼろ泣いてしまうくらい感動して、そのとき小説家でよかったなと思ったんです。というのは、小説を仕事にしていると、人の小説を純粋な目で読めなくなるでしょう? よい文章があっても、作家になる前は心から感動できたけれど、いまは別の感情がまじったり、分析をしてしまったり。

綿矢 (頷きながら)はい、はい。

道尾 綿矢さん、小説以外で、最近、何かいいものに出逢いましたか。

綿矢 そうですねえ、道尾さんが言うような「いいもの」じゃないけど、自分が小説以外で何か作ってみて、いいなと思うことはありますね。それは手芸……ぬいぐるみで、すごい下手くそなんですけど、自分の専門分野ではないものを作って、下手くそなりにできあがったものを眺めると、あ、自分にはこういう面もあるんだとわかって、ちょっとうれしい。

道尾 思ったとおりにはできないわけですよね。たとえばプロの作品みたいには。

綿矢 もちろん。

道尾 で、作家としてはプロなわけです。

綿矢 はい。

道尾 どっちにもどかしさを感じます? 小説を書いている間、ああでもないこうでもないと、もどかしい時間がずっとつづくじゃないですか。手芸でうまくいかないのとどっちがもどかしいですか。

綿矢 仕事になってしまったものは、前に進めずにいるとそもそも成り立たない。でも、仕事から離れた趣味だと、たとえ下手でも没頭して進められるじゃないですか。だから仕事のほうがもどかしいですかね、やっぱり。

道尾 綿矢さんは、小説家になる前に、小説家という職業に対するあこがれというのはありました?

綿矢 幼稚園くらいから小説を読んでて、読んでるだけの間はずっと、小説ってただ読むものでした。自分で書いてみて初めて、小説家という職業を意識しました。

道尾 予想していたのと、実際になってみた後で、差はあったんでしょうか。

綿矢 うーん……、もっと芸術的な、もっと破綻的な生活が待ってると思ってました。好きな作家が太宰治だったので(笑)。

道尾 最後に必ず自殺しないといけないんじゃないか、みたいなね。

綿矢 ほんとにほんとに! 自殺しないまでも、障子がぜんぶ破れた家で(頭を掻きむしりながら)「わー書けない!」みたいなイメージが強くて。実際には、みんなマックのキーボードを小洒落た感じにカタカタやってたりするので(笑)、イメージとは違ったかな。道尾さんは?

道尾 僕の場合は、こんなに自由な職業だと思ってなかった。僕らの知ってる作家って、サザエさんの伊佐坂先生なんですよね。で、編集者のノリスケさんが原稿を取りにくると、家からこっそり逃げ出したり、お蕎麦屋さんで蕎麦を食べているときなら、机の下に隠れたりする。もちろん誇張だとは思いつつも、作家ってやっぱりきつい面があるんだろうな、締め切りに追われるのが普通なんだろうなと思っていました。

 漫画家さんとかライトノベルの作家さんは、人によっては内容に関するオーダーが8割くらいあって、「ここでエッチなシーンを入れて下さい」なんて指定されることもあると聞くんですけど、僕らの場合、自分で創造できている限り、編集者がそんなこと言ったら何かのドッキリかと思うくらい、基本的に全部まかせてもらえるでしょ。

綿矢 その自由具合いって、世間に伝わってないですよね。

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別册文藝春秋 2014年5月号

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