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冒険と読書が教えてくれたこと

冒険と読書が教えてくれたこと

「オール讀物」編集部

辰野勇(株式会社モンベル 代表取締役会長兼CEO)

出典 : #オール讀物
ジャンル : #小説 ,#随筆・エッセイ

「命を賭けて、他人のしないことをする人間は全人口の〇・三パーセントしかいない。つまり、神が創造した突然変異。そのほかの人々は、安全で快適な生活を望む。でも、現在の快適な暮らしというのは、限界を超えて作業をしてきた人たちが、作り上げたものなんですよ」

 実際、医療の分野では、華岡青洲は妻を実験台に麻酔を用いた手術に挑み、エドワード・ジェンナーらは、親しい人間を実験台にして、天然痘ワクチンを開発しました。つまりそれが、人間の特性なのだと聞いて、少し気が楽になりました。

 最後に紹介したいのが『山の思想史』という本です。著者は高峰への挑戦は、デーモニッシュ(悪魔的)な活動である、と指摘しています。西洋では「悪魔のように速い」という表現があるように、人間の英知を超えた計り知れない力を「悪魔」という言葉で表現しています。この悪魔の力を得た歴史上の人物として、ヒットラーや、ナポレオンらが挙げられています。悪魔に魅入られて、その指につまみあげられた人が、自分の能力以上のものを発揮し、歴史を動かした。ただ、悪魔は気まぐれで、急に手を離すこともある。悪魔をコントロールできなかった人間は、非業の死を遂げると。

 モンベルも創業以来、順調に来ましたが、私はこう考えるようにしているんです。目に見えない力に助けられながら、ビジネスを成功させてきたが、いつ落とされてもいいように自らをコントロールしないといけないと(笑)。山男というのは怖がりなんですよ。日帰りの登山でもリュックサックの中には必ずヘッドランプを入れるし、天気の良い日でも雨具を準備しますからね。


お勧めの4冊

・『新編・白い蜘蛛』 (ハインリッヒ・ハラー 著) 山と溪谷社

・『エヴェレスト 神々の山嶺』 (夢枕獏 著) 角川文庫

『坂の上の雲』(全八巻) (司馬遼太郎 著) 文春文庫

・『山の思想史』 (三田博雄 著) 岩波新書

辰野勇(たつの・いさむ)

辰野勇

1947年生まれ。1969年に世界最年少(当時)の21歳でアイガー北壁に登頂。1975年にモンベルを設立。黒部川の源流部から河口までカヤックでの初下降にも成功した

会社メモ:1975年、世界で愛される登山用具の開発を目ざして設立。高機能素材を使った寝袋が大ヒット。レインウェアやテント、カヌーなども支持され、日本有数のアウトドア製品メーカーに

坂の上の雲 一
司馬遼太郎・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2004年04月12日

詳しい内容はこちら  特設サイトはこちら

オール讀物 2016年6月号

定価:980円(税込) 発売日:2016年5月21日

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