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特別対談 逢坂剛×黒川博行 イオリンの思い出

特別対談 逢坂剛×黒川博行 イオリンの思い出

文:「本の話」編集部

『テロリストのパラソル』 (藤原伊織 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

男前だったイオリン

逢坂 私はイオリンとは「小説現代」の新人賞で、同時に候補になったことがあるんだよね。

黒川 へぇ。

逢坂 1970年代の後半。知り合って以降、イオリンに言われて判明したんだけど。調べたら確かに藤原伊織ってあって。

黒川 2人ともそのときから同じペンネームで?

逢坂 そう。それでふたりとも落っこちてるんだよ。とんでもない選考委員だと思わない(笑)?

黒川 あはは。

逢坂 あの当時、彼は30代の半ばで候補になってたのかな。その頃から文筆志向だったんだろうね。

黒川 僕がイオリンと知り合ったのは、彼が『テロパラ』で乱歩賞を獲った、半年後くらいです。講談社の担当者が一緒で、今度の受賞者は麻雀が好きだから、一度一緒にやりますかと言われて、初めて会うたんです。そしたら同じ大阪人やし、イオリンは高津高校出身なんやけど、そこの美術の先生は、僕の美術教師時代の同僚というか、先輩だった先生で、よく知ってたんです。そんな話をして、それでお互い本を送りあうようになりました。それで、東京行くたびに彼と麻雀するようになって……。当時、彼にはずいぶん勝ちました(笑)。

逢坂 彼はそんなに負けてたの? 麻雀、うまくなかったのか。

黒川 うまいです。でもスタイルにこだわって、とにかく勝負するんです。「フルエントリーのイオリン」と呼んでました。

逢坂 私は黒川さんほど、密接な付き合いをしていたわけではないけど、彼は電通、私は博報堂に勤めてたから同じ業界で、パーティなんかで会うと昔からの知り合いみたいに話ができて、それは不思議だったな。広告マンとしてライバルなのに、同志っていう感じがあった。パーティで会うとイオリンから私に挨拶してきてね、その後は2人で漫才みたいになってたな、いつも。

黒川 彼は大阪人やから、自虐ギャグをよく言うてました。

逢坂 そうそう。

黒川 知り合って2年目かな。「小説現代」で対談をすることになって、そのときにお互いをどう呼びましょうという話になって、いちいち“さん”付けは面倒くさいから、ほな僕は「イオリン」と呼んでいい? と聞いたら、イオリンは「それはかわいい」と喜んで。それで、イオリンは僕のことを「おっちゃん」と呼ぶと。僕のほうが年下なのに、「なんで俺がおっちゃんなんや」と思うたけど(笑)。それから「おっちゃん」「イオリン」という仲になったんです。

逢坂 ああ、そうだったんだ。イオリンとは私も2、3回対談したことがあるんだけど、ある時、対談が終わった後、イオリンはタクシーの列に並んで、私は歩いて帰れる距離だったから、一緒に並んで見送ったんですよ。そうしたら彼が後にエッセイで、逢坂さんはタクシーの私を見送ってくれて、さすが広告マンは違う、と書いた。じつは私にそんな深い意味はなくて、たまたまだったんだけど(笑)。でも私の行動を、そう感じてしまうところが、分かるというか、繊細だなと思ったね。つまり広告マンとしての習い性というのかな、そういうところでいちいち気を遣ったり、感謝したり、感心したり、お互い業界の感覚が染み付いているんだな、と思いましたね。

黒川 イオリンというのは、ほんとに男前でしたね。

逢坂 どんなところが?

黒川 ものの感じ方とか感受性が男前でした。よく怒ってましたね、いろんなことに。

逢坂 どんなふうに?

黒川 世の中のことはあんまり言わへんけど、たとえば、どこそこの編集者が俺にこんなこと言うたけど、どう思う? って僕に訊くんです。僕は人に対してすごく甘いから、そういうこともあるんちゃう、とか言って、あんまり怒らない。逆に僕は、イオリンはこんなことで怒るのか、と思ってましたね(笑)。イオリンは、物事の筋が通るかどうか、それをまっとうする人でした。

逢坂 ああ、なるほどね。酔っ払ってくると、体がふらふらしてきて、ぐにゃぐにゃだったけど、芯が通っていたね。

黒川 あの筋の通し方っていうのは、大阪人には珍しい。イオリンは常にまっすぐやった。僕にとっては、ほんとにもっとも親しい作家がいなくなってしまいましたわ。

逢坂 いや、まったく。こうして、久しぶりにイオリンの昔話ができて、よかったです。

(2014年9月)

文春文庫
テロリストのパラソル
藤原伊織

定価:803円(税込)発売日:2014年11月07日

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