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新しい信長像――そのカリスマと狂気

新しい信長像――そのカリスマと狂気

『王になろうとした男』(伊東 潤)


ジャンル : #歴史・時代小説

伊東 信長の優秀性は、家臣に対する管理統制面にも表れています。信長が死に、誰が後継者になろうとも、そのシステムに乗っかっていれば、ある程度は、同じように動く体制を作り上げていたわけです。

本郷 信長の国家観も当時としては独特でした。日本が一つの国といった考えは戦国時代の人は持っていませんでした。駿河には今川という王様がいて、相模には北条がいる。それがまとまって一つになるとは誰も考えていないのです。現に室町幕府も各地をバラバラにしたまま統治していました。

高橋 現代人の目線から見ると、どの大名も天下を狙って群雄割拠していたように思われています。しかし、大名は今の自分の領土を守れれば良かった。その中で信長は、統一政権を作ろうと言い出した。最初EUを作ろうとした人間が、夢想家扱いされたのとあまり変わらない(笑)。

伊東 宣教師が、信長に統一政権を作らせようと、ヨーロッパの情報を吹き込んでいた可能性はあります。信長に全国を統一させてしまえば、キリスト教を一気に広められると思ったのでしょうね。ただ、一筋縄ではいかないのが信長です。

本郷 信長といえば仏教を弾圧して、キリスト教を保護していたイメージがありますが、そうとも言い切れません。安土宗論と呼ばれる仏教論争では、日蓮宗と浄土宗のお坊さんが、お互いの宗教観の違いから論争になった。これを知った信長は、家臣を派遣するなどして審判役を買って出ている。結局、浄土宗の勝ちという判定を出しています。こういったところからも、伝統的な宗教にも理解のある教養人であり文化人だったことが窺えます。でも、必要であれば比叡山でも焼打ちにする。

高橋 あの時は、自分に敵対しないで中立を守って欲しい、と繰り返し説得しています。

本郷 浅井長政や朝倉義景の軍勢をかくまっていると敵対行為とみなしますよ、と使者を送っています。ですが、比叡山側が拒否をした。やるとなったら徹底的にやるのが、信長の恐ろしさです。伊勢長島で二万人の老若男女を虐殺したとされていますが、人口比にすると今では二十万人に相当します。

 不思議なことに研究者の間では、「信長はわかりやすい」とされています。合理主義者だから足跡を丹念に追ってゆけば理解できる、というのです。しかし、こういった虐殺行為を見ると決して合理性では考えられるものではありませんし、簡単に理解できるとはとうてい思えません。

高橋 比叡山の話にしても、ある種の「狂気」を感じます。信長を演じるときに一番注意したのは、まさにこの部分です。ハハハッと笑っていたと思ったら突然キュッと怒り出すといった感情の起伏を持つように気を付けました。

 信長は人の感情を巧みに読み解いている節があります。怒ったらいい人とおだてたらいい人をしっかり区別している。個性を見抜く目を持っていたのは間違いありません。

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王になろうとした男
伊東潤・著

定価:本体660円+税 発売日:2016年03月10日

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