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一度は可能性ゼロに近づいたオバマ大統領広島訪問。悲願実現の舞台裏に迫る

一度は可能性ゼロに近づいたオバマ大統領広島訪問。悲願実現の舞台裏に迫る

「本の話」編集部

『オバマへの手紙 ヒロシマ訪問秘録』 (三山秀昭 著)


ジャンル : #ノンフィクション

――オバマ大統領が平和公園で抱擁した森重昭さんのことも、三山さんがホワイトハウスにつないだそうですね。

 それは2回目のホワイトハウス訪問の時です。被爆・敗戦70周年が終わった2015年9月に、今度は被爆者、被爆二世、一般市民1400人の手紙を持参して、やはり「被爆者や広島市民は謝罪にこだわっていない」と繰り返しました。ただ、そのことはホワイトハウスもすでに理解していたので、「それだけでは弱い」と思い、森重昭さんの被爆米兵死者の話を持ち出しました。原爆で米兵捕虜も12人が死亡しており、それを自らも被爆者である森さんが地道な調査を続け、その結果、原爆慰霊碑の被爆死没者名簿への記載を広島市に働きかけ実現したことを伝えました。つまり、被爆米兵も追悼、慰霊の対象になっていることを詳しく説明したわけです。ホワイトハウス高官は「興味深い話ですね」と関心を示したので、私がその詳細を書いた長文の英文原稿を渡し、

「よく読んでほしい。必ず、オバマ訪問のカードになるはずだ。この話は広島訪問に反対する米国内の退役軍人や保守派を説得するカードになる。オバマは広島を訪問しやすくなる」

 と繰り返し強調しました。このあたりは、本書の〈第9章「オバマへの手紙」特別版 被爆米兵と森重昭さん〉に詳細に書きました。私が最初にオバマ広島訪問の「感触」らしきものをつかんだのはこの時です。高官が森さんの話に強い関心を示したからです。

森重昭さんを抱擁するオバマ大統領(2016.5.27)

――事実、森さんの存在はオバマ広島訪問のキーになりましたね。

 私も原爆で米兵捕虜が死亡していたことは、2011年に広島テレビの経営者になるまで知りませんでした。それまでは、「広島は捕虜収容所がないので投下地になった」と聞いていましたから。そこで、広島の大学教授や森さんなどと接触し、事実を確認しました。「アメリカが落とした原爆で米兵捕虜が12人も亡くなっている」という“不都合な真実”は日米双方とも長らく極秘扱いしていました。外務省局長OBでも「エッ、米兵も死んでいるんですか」という反応でした。

 そこで、「森さんの話は絶対にカードになる」と思い、ホワイトハウス高官に詳細な事実を伝え、帰国後は森さんにだけは高官とのやり取りを報告しましたが、その後、論壇誌に原稿を書いた時も、このテーマは極力避けました。「カードは切ってオープンにしたらカードにならない」と思ったのです。

――実際は伊勢志摩になりましたが、オバマの広島訪問の環境作りのため、G7サミットを広島で開催するという計画もあったと聞きましたが。

 事実です。私はかつて新聞社のワシントン特派員を3年やったことがあります。ですから、多少はアメリカ人の原爆に対する考え方、特に退役軍人ら保守派のスタンスはわかっているつもりでした。大統領が被爆地ヒロシマを訪問することは「謝罪につながる」として、保守派は反対するだろうとは簡単に予想できました。まして、ポストオバマを決める大統領選が熱気を帯びている時期ですから。戦後50年の1995年にワシントンのスミソニアン博物館で企画された「原爆展」が保守派や連動する議員の反対で事実上、つぶされたことを知っている人なら、同様な懸念を抱いたことでしょう。

 そこでオバマが広島を訪問しやすいように2016年のG7サミットを広島で開催すれば、オバマは「広島でサミットがあるので広島に行く」というエクスキューズが保守派に対して使えると思ったのです。広島には毎年の8月6日の平和記念式典に各国のVIPを招いているので、警備の経験も豊富だし、サミットの主会場を三方が海に囲まれたホテルにすれば、問題ないとも考えました。私が会ったホワイトハウス高官も「広島サミットなら大統領は行きやすい」と語っていたし、国務省も「広島サミットはいいアイディア」との反応でした。

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オバマへの手紙 ヒロシマ訪問秘録
三山秀昭・著

定価:本体780円+税 発売日:2016年09月21日

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