2011.01.20 インタビュー・対談

歴史探偵が語りおろした「戦争史」決定版

聞き手: 「本の話」編集部

『あの戦争と日本人』 (半藤一利 著)

歴史探偵が語りおろした「戦争史」決定版

──『昭和史』、続く『幕末史』は累計数十万部のベストセラーとなりました。今回は二冊の間をつなぐように幕末・明治維新から太平洋戦争敗戦まで、戦争を通して日本をみつめた一冊です。本書の中には「日露戦争の勝利を境にして、日本はそれまでと違う国家になったんじゃないか、とわたくしは思っているんです」とあります。これは一冊を通して大きなテーマですね。

半藤  各藩がばらばらだった幕末から明治になると「富国強兵」という国家目標が定められ、教育勅語や御真影によって天皇を中心にした国家づくりを一生懸命やりましょうということになりました。でも強兵は莫大なお金を必要として国民に負担をかける訳だから、国を富ませていきながら軍隊を強くしていくというのは本来は矛盾した目標なんです。

 けれど日露戦争前の明治の人々は、自分達が困苦に堪えて働くことが国や人のために役立って住みやすい国になると信じて疑わず、一生懸命頑張っていました。司馬遼太郎さんも『坂の上の雲』のあとがきの中で、「これは日本史上類のない楽天家たちの物語である」という風に書いています。司馬さんの言うところの「楽天家」とはつまり、日本の発展を疑わず、一生懸命働いている人々のこと。日本人は実際に富国強兵を実現し、日露戦争に勝つという奇蹟を行った訳です。

──けれど第三章「日露戦争後と日本人」では、残念ながら、そんな国民の意識が変わりゆく様子が描かれています。

半藤  日露戦争に勝利したことによって、「勝てば官軍」で軍人はみな華族になり、にわか成金が山ほど生まれ、自分のための利益を求めて好き放題やり始めました。日本人は一等国民になったとおごり高ぶってしまったんです。さらにアジアの盟主になろうという「大日本」主義に陥って、すっかりまじめさを失ってしまいました。

──第三章には「理性や常識的なものの見方ではなく、われらは一等国民だという情念によって日本人は動きはじめた」ともあります。

半藤  勝利したといっても、実は国力を使い尽くしてやっと講和にたどりついただけだったのに、戦争後に日本の指導者達はその事実を隠してしまった。その理由のひとつには、ロシアを恐れていたということがありました。海軍は完璧に撃破したけれど、元々大陸軍国である帝政ロシアの陸軍はそっくり残っている訳です。報復を恐れていた日本は「恐露病」ともいえる状況だったんですよね。

 他にも様々な理由はありますが、あんな風に隠さずに、日露戦争後にきちっと事実を明らかにして、「日本はもう少し我慢しなくてはいけませんよ」、「国力に見合った国づくりをやっていかなきゃいけませんよ」ということを、指導者が語るべきだったんですよね。それをしなかったために、その後の日本人は勝利に酔って、謙虚さを失い、冷静におかれた現状を受け止めることもせず、やがて世界の孤児となり太平洋戦争に突入していくことになります。

あの戦争と日本人
半藤 一利・著

定価:1600円(税込) 発売日:2011年01月28日

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