2013.06.27 インタビュー・対談

お家芸の復活にみる
日本女子の底力

聞き手: 「本の話」編集部

『日の丸女子バレー ニッポンはなぜ強いのか』 (吉井妙子 著)

お家芸の復活にみる<br />日本女子の底力

――1964年の東京五輪の金メダルから、昨年のロンドン五輪の銅メダルまで、本書『日の丸女子バレー ニッポンはなぜ強いのか』では、半世紀に及ぶ全日本女子バレーの激闘が、監督や選手たちの肉声をもとに描かれています。

吉井 女子バレーに私が最初に興味を持ったのは、1992年バルセロナ五輪でした。全日本の司令塔のセッターだったのは、早くから天才といわれた中田久美さん。怪我から復帰直後だったにもかかわらず、そのプレーは素晴しく、まさに「命を懸けて」いるような印象を受けたのです。結果は5位でしたが、しばらくして取材を申し込むと、私は彼女からいきなり、親の仇にでも会ったような眼でにらみつけられました。彼女はメダルが獲れなかったことではなく、先輩たちが脈々とつないできたものを失ったことが、申し訳ないとひたすら自分を責めていた。中田さんは「日本の女子バレーは金メダルを獲らなければならない」と言い切るのです。これほどエッジの効いた精神は、いったいどこからくるのだろうと興味を抱き、以来20年にわたって女子バレーを追い続けてきました。その集大成がこの1冊になります。

――女子バレーは「お家芸」といわれ、人気もありますが、低迷が続いていた時期もありました。

吉井 不思議なことに女子バレーの成績は、日本の国力とリンクしているんです。高度成長時代は非常に強かったんですが、バブルが弾けて以降、その成績は下降線をたどり、2000年シドニー五輪は出場も逃しました。そもそもバレーは身長が高く、身体能力が高いチームのほうが絶対に有利なスポーツ。多くの国に普及するにつれ、日本が伝統のみにしがみついていては、勝てなくなるのも当然でした。資源がない日本が世界の経済と戦うときに、技術力や生産効率など発想で勝負しなければならないように、スポーツでも資質のない日本のバレーが世界の強豪に伍するためには、ジャパンオリジナルの発想と工夫が必要なんです。かつて世界を制した大松博文監督による「回転レシーブ」や、山田重雄監督による「ひかり攻撃」などは典型的なジャパンオリジナルの技ですが、ロンドン五輪を率いた眞鍋政義監督も、データを駆使した独自のチームづくりを行い、対戦相手も研究しつくした。その成果がロンドン五輪で花開いたのでしょう。

――戦略・戦術もさることながら、日本女子バレーにおいてはチームを牽引する選手の存在が大きいようですね。

吉井 はい。たとえば、「東洋の魔女」が日本を熱狂させた東京五輪は、大松監督の「黙って俺について来い」が有名で、いかにもスパルタな鬼監督に選手たちが従順についていったように思われています。けれど、実際は選手たちの意思が常に最優先にされていた=「プレイヤーズファースト」だったことは、この本を読んでもらえばよく分かるはずです。主将の河西昌枝さんが、長女のようにメンバーをまとめ、コートの内でも外でも、すべてを委ねられる存在でした。東洋の魔女の魂は、ミュンヘン五輪の主将の松村勝美さんら、モントリオール五輪のエースの白井貴子さんらに引き継がれ、それがロサンゼルス五輪の江上由美さんへ、さらに江上さんが育てた中田さんを経て、大林素子さんや吉原知子さんへ、やがてロンドン五輪の竹下佳江さん、木村沙織さんへと受け継がれていきます。不思議なことに、彼女たちは世代が違っても、同じような匂いを感じさせることが度々あるんです。そこには何か勝利の遺伝子のようなものが組み込まれているのではないか……今回、オリンピックという世界の舞台での戦い方を系統立ててまとめたことで、それが何かも見えてきたのかもしれません。

――日本の女子選手の活躍は、最近はバレーに限らず、サッカーやソフトボール、卓球やレスリングなどで目立ちます。その一方で柔道の指導者をめぐる問題は残念でした。

吉井 指導者が暴力をにおわせる「スパルタ」や「しごき」で、選手に有無を言わせずに従わせることが、勝利への近道という勘違いが、これまでの日本には少なからずあったと思います。でも、世界に勝てた監督のことを、選手は口をそろえてプレイヤーズファーストだったと言いますし、精神論ではなく科学に裏打ちされた練習法がそこにはありました。このことを『日の丸女子バレー』を通じて伝えたいという気持ちもあります。同時に、資質には恵まれない日本の女子が世界で勝てるのは、非常に頭がいいから――勝つために自分が何をすべきか、言葉がなくてもチームメイトと互いに互いを理解できるんです。そんな日本女子の底力を改めて見直し、社会にさらに活用してもらえたらと考えています。

日の丸女子バレー
吉井妙子・著

定価:1470円(税込) 発売日:2013年06月22日

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