2014.09.15 書評

対談 佐々木譲×逢坂剛
鬼平 VS. 警察

文: 「本の話」編集部

『平蔵の首』 (逢坂剛 著)

逢坂 佐々木さんとは、お互いに警察小説を書いたり、歴史小説を書いたりしていることもあって対談の機会が度々あります。まあ、古い縁で……(笑)。

佐々木 いやいや、新人賞をいただいてデビューした辺りから、色んなところで逢坂さんとはご縁があります。

逢坂 確かオール讀物新人賞を獲ってデビューされたのが、私のオール讀物推理小説新人賞受賞より1年早い1979年(昭和54年)でしたか。

佐々木 そうですね。

逢坂 もう30年以上も前か! つい最近まで若手かと思っていたのに、いつの間にか中堅になって、まあ、2人とも年も取ったわけだ。

佐々木 最近ではベテランと言われてしまいます。

逢坂 来年あたりは、もう文豪になっちゃうんじゃないかな(笑)。

大江戸版・潜入捜査

佐々木 逢坂さんの『平蔵の首』(本書)、読み終えたばかりです。早速、感想から話しましょうか。

逢坂 改まって言われると、何だか緊張してしまう(笑)。

佐々木 読後スッと浮かんだ言葉をメモしてきたんですが、この作品のキーワードは、まさに大江戸版『インファナル・アフェア』でしょう。いわゆる捕物帳では全然ない。現代の警察を題材にした潜入捜査ものを読んでいるようでした。本当に面白かったです。

逢坂 そういう意識はなかったけれど、意外な犯人探しというわけでもないし、考えてみたらなるほどね。

佐々木 逢坂さんが悪徳警官を主人公に描いた『禿鷹』シリーズ(文春文庫)に流れが通じるものとして、私には読めました。登場人物たちはキャリアの幹部警察であっても、決して純粋な正義でもない。というよりも、かなりのワル(笑)。ノワールな警察小説の雰囲気と、『平蔵の首』に通底しているハードボイルドな雰囲気には、間違いなく共通する匂いを感じました。

逢坂 そう言われると有り難いなあ。長谷川平蔵を主人公にした時代小説と言えば、誰もが池波正太郎さんの『鬼平犯科帳』を思い浮かべる。これほど書きにくいものはなくて、「オール讀物」の前編集長に脅かされて、無理やり書かされたんです(笑)。

佐々木 脅かされたんですか?

逢坂 うーん、まあ苦労しました。要するに池波さんの真似を少しでもしてしまったら、鬼平ファンの顰蹙(ひんしゅく)をかってしまいます。“鬼平臭”をゼロにすることは無理でも、少しでも消したい。ところが、池波さんの鬼平のキャラクターは、『よしの冊子(ぞうし)』という古文書に記されているものと非常によく似ているんです。この資料が活字になったのは、鬼平がはじまったあとだから、池波さんは多分、読んでいないでしょう。それにも関わらず想像だけで、実像そっくりの鬼平を創り出したのは作家の勘ですね。同じ物書きとして、これを踏襲することはできないと悩み抜いた末、平蔵があまり登場しないようにする仕掛けを考えました。

佐々木 絶対に池波さんの書いた平蔵には出来ない、という縛りがあったわけですね。

逢坂 たとえば「長官」と書いて、「おかしら」と読ませるとか、「お盗(つとめ)」「急ぎ盗(ばたらき)」という言葉は、全部、池波さんの発明です。自分で書いてみると、実にこの言葉がうまいということが分かる(笑)。ここで池波さんの作った言葉を使いたいという誘惑は、多々あったんですが、それはやっぱりまずい。

佐々木 同じ江戸、天明・寛政の時代でありながら、全く雰囲気は池波さんとは違いました。

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平蔵の首
逢坂剛・著

定価:本体560円+税 発売日:2014年09月02日

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