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破格のスター、“世界のミフネ”の素顔

破格のスター、“世界のミフネ”の素顔

文:松田 美智子 (ノンフィクション作家)

『サムライ 評伝 三船敏郎』 (松田美智子 著)


ジャンル : #ノンフィクション

波乱万丈の人生を追う

 三船敏郎は生涯で150本の映画に出演している。黒澤明、山本嘉次郎、稲垣浩、岡本喜八など大勢の監督に愛され、作品を生み出してきた彼を過去の人にしてはならない。取材を進めるほどに、その気持ちはますます強くなっていった。

 今となっては、なにか特別な力が働いたとしか思えないのだが、三船家の墓参をして、取材の許可を願ったあとは、不思議なほど「三船さんの話なら知っている限りのことを話します」という人が続いた。取材を断わられたのは、訳ありの人ばかりである。

 波乱万丈の人生を送った三船のエピソードは尽きなかった。本書では、『文藝春秋』では書ききれなかった様々な証言や出来事を盛り込み、三船の実像を描き切ったつもりだ。

 中には、現在の俳優なら1回で警察沙汰になり、芸能界から姿を消してしまうだろうと思う話も多く、校閲の際(この話を書いてもOK?)のチェックが何箇所も入った。私としては、もはや時効という判断ですべてOKした。

 三船は猟銃、拳銃、実弾、真剣を所持し、酒酔い運転で黒澤明の家の周囲を「バカヤロウ!」と怒鳴って走り回ったのは有名なエピソードである。

 それでも、黒澤は三船を愛していた。普段の彼が、監督の無理難題に愚痴ひとつ言わず、全身全霊の演技で応えようとしていたことをよく知っていたからである。例えば三船は『用心棒』や『椿三十郎』で、刃の動きがフィルムに映らないほどのスピードで人を斬っているが、その殺陣は、本人が鍛錬し、努力して作り上げたものだった。

 三船はまた律儀な人であり、1度でも世話になった人のことは、けして忘れなかった。三船は昔、自分の盲腸の手術をしてくれた医師に、数10年間、年賀状を送り続けたという。

 そんな三船も、会社経営では失敗した。信頼していた部下に裏切られるかたちで、内紛が起き、組織が分裂。以後の経営が厳しくなった。彼の優しさ、人の良さが裏目に出てしまった。

 また、不倫騒動や離婚裁判で世間を騒がせ、晩年は闘病生活に苦しむなど、人間的な弱さも見せた。

 もし、三船が社長にならず、1人の俳優として生きていたら、晩年はもっと穏やかなものになっていただろう。だが、“世界のミフネ”は、海外から舞い込んだ多数のオファーに応じ、他のスタープロとは規模が違う撮影所を作り上げたのだ。

 輝かしい栄光と挫折は、突出した俳優の宿命だったのかもしれない。

 彼には強さも弱さもあったが、それらを含めて、三船敏郎という、もはや2度と現れないだろう稀有な俳優の魅力を、再認識して頂ければと願う。

『サムライ』
松田美智子・著

定価:1,500円+税 発売日:2014年01月09日

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