2013.11.25 書評

解説――小説家・永瀬隼介にとって重要な節目となった一冊

文: 村上 貴史 (ミステリ書評家)

『刑事の骨』 (永瀬隼介 著)

刑事の骨

 永瀬隼介は、祝康成名義でノンフィクションを手掛けた後、二〇〇〇年からこの名義で小説も書き始めた作家だ。小説家としては、デビュー以降、年に一作強というペースで重厚な小説を中心に作品を発表してきた。近年では、二〇一二年の『帝の毒薬』が日本推理作家協会賞にノミネートされており、その実力は高く評価されている。

 本書『刑事の骨』は、『帝の毒薬』の一つ前に発表された作品。脂ののりきった時期に書かれた作品である。

 主人公を務めるのは不破孝作。高卒、すなわちノンキャリでありながら、四十四歳の時点で、警視庁捜査一課の警視として管理官の任にあった。同期の出世頭だった彼にとって、都内で発生していた幼児連続殺人事件は、その出世にピリオドを打った事件でもあった。

 ある雨の夜のこと、捜査本部に一本の電話がかかってきた。二人の幼児が連続して殺害された事件の犯人を名乗る男からだった。その電話によって、現在行方不明になっている小倉智美という女の子も、男の支配下にあることが判明する。その人物との会話において不破は、管理官にあるまじき言葉を発してしまった。「二人殺せば十分だろう」と。

 ちょうどその頃、高尾の交番に勤める巡査長の田村保一は、電話ボックスのなかでおかしな笑い声を上げている若い男に気付いた。職務質問をかける。その男こそが、幼児連続殺人事件の犯人であり、その瞬間まさに不破と会話している最中だったのだ。電話ボックスから逃走した男を田村は必死で追う。管理官である不破に「さっさととっつかまえろ」と命じられたからだ。管理官であり、警察学校の同期である不破に「射殺してもかまわん」「ぶち殺せっ」と命じられたからだ。

 それでも田村保一は男を取り逃がした。体力不足や決断力不足、それらが原因であった。その夜、小倉智美は死体で発見される。そしてこの失態を契機として、不破は出世コースから完全に外されたのであった。一九九三年の出来事であった……。

 全体で四三〇頁ほどの『刑事の骨』は、二部構成となっており、その第一部で前述したような幼児連続殺人事件が描かれている。こちらの分量が約八〇頁であり、残る頁が第二部となっている。

 第二部の時代設定は、二〇一〇年の一二月。主人公はやはり不破だ。スーパーマーケットの保安員として、万引き犯に目を光らせている彼を、ある日、田村保一が訪ねてき た。ひとしきり昔話をして─同年の六月に未解決のまま時効を迎えた幼児連続殺人事件の話を含めてだ─田村は不破の部屋を去っていった。そしてこの田村の訪問が、不破を再び例の事件へと呼び戻すことになる……。

【次ページ】二部構成

刑事の骨
永瀬隼介・著

定価:750円+税 発売日:2013年10月10日

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