本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
本を読み、文章を書くことで思考が整理できる

本を読み、文章を書くことで思考が整理できる

挽野 元

オール讀物 2015年10月号

出典 : #オール讀物
ジャンル : #随筆・エッセイ

 私は少し時間ができるとフラッと書店に行くんですが、そんなときに出会ったのが、三浦しをんさんの『舟を編む』です。書店でこの本を見たときに、ある人から勧められていたことを思いだして文庫を購入しました。新しい辞書“大渡海”を作る編集者、学者、営業マンたちの物語を読みながら、小さなことをコツコツ積み重ねていくのは大変なことですが、最後までやり遂げることの大切さを学びましたね。巻末についている主人公・馬締光也が林香具矢におくった“馬締の恋文”は秀逸でした。文章で人に気持ちを伝えるとは、まさにこのことだと。

 HPを退社し、二〇一三年にボーズの社長に就任してから、「社員自らが考え、提案し、責任を持って行動できる環境づくり」を目指してきました。そのための共通テーマになればと思って、毎月、全社員向けに二回、直属部下向けに二回の計四回メールで文書を発信しているんです。私が社員全員と一対一で話せれば理想的なのですが、日々の業務の中で、それは難しい。一方通行になるリスクはあるけれど、私の考えを文章で伝えていこうと。ただ、文章を書くたびに“人に伝えることの難しさ”を痛感します。

 伊集院静さんや椎名誠さんのエッセイも読みますが、文章が非常にお上手ですよね。作家の文章を読むと、“個性”を感じます。山崎豊子さんの重みのある表現。三浦しをんさんの優しい文体。読みながら、これは良いなと思って、模倣して書こうとするんです。結局は真似できずに自分の表現に戻ってしまうんですが、それでも、作家の文章を読んで、自ら文章を書く作業をしていると、思考が徐々に整理されていくんです。

 自分の考えていること、伝えたいことをクリアにしていく必要があるビジネスマンには、読む、書くという作業が非常に有効だと思っています。みなさんも部下や友人宛てにメッセージを書かれてみてはどうでしょうか。


お勧めの3冊

・『欧州の路上で――異文化を知る旅』 (戸田光太郎 著) アルク新書 絶版

・『沈まぬ太陽』(アフリカ篇、御巣鷹山篇、会長室篇 全五巻) (山崎豊子 著) 新潮文庫

・『舟を編む』 (三浦しをん 著) 光文社文庫

挽野 元(ひきのはじめ)

挽野 元

1967年生まれ。1992年、武蔵工業大(現・東京都市大)大学院修了。同年、日本ヒューレットパッカード入社、2011年に取締役。2013年、ボーズ代表取締役社長に就任

会社メモ:音響機器の研究開発企業。新製品の「Wave SoundTouch music system IV」(写真右)は、コンパクトながら、圧倒的なサウンドのCD/ラジオ/ワイヤレス一体型サウンドシステム

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る