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ヤマトと進、愛すべき仲間たち――進化しつづける“ホリデー”シリーズ

ヤマトと進、愛すべき仲間たち――進化しつづける“ホリデー”シリーズ

文:吉田 伸子 (書評家)

『ウィンター・ホリデー』 (坂木司 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

 ある日突然、職場を訪ねて来た見知らぬ小学生男子から、「初めまして、お父さん」と挨拶されたとしたら。しかも、その職場というのは、「クラブ・ジャスミン」というホストクラブだとしたら――。シリーズ第一作『ワーキング・ホリデー』の冒頭である。

 主人公の沖田大和(以下ヤマト)は、ひょんなことから「クラブ・ジャスミン」のオーナーである、おかまのジャスミンに“拾われ”て、ホストの世界に足を踏み入れる。ばりばりの元ヤンで、知性も教養にも難ありだけど、心の根っこが真っ直ぐなヤマト。そんなヤマトの美点を直観で見抜き、武闘派ヤンキーからホストへ転身させたジャスミン(二人の出会いは、「ホリデー」シリーズのスピンオフ短編集『ホリデー・イン』に書かれていますので、そちらもぜひ!)は、“息子”を名乗る少年=進(最初は半信半疑だったヤマトだが、少年の名字と母親の名前を聞いた瞬間、思い至る)が来店した翌日、客に手をあげた――別のホストに入れあげ、AVに出てお金を工面しようとしていた常連客に、ただ遊ばれてるだけだ、と目を覚まさせようとして、つい手が出てしまったのだ――ヤマトを即日解雇すると同時に、新たな就職先を世話する。それは、宅配便会社の、正社員を前提としたアルバイトだった。そこから、物語は始まった。

『ワーキング・ホリデー』が夏休みの物語なら、続編である本書は、タイトルからも分かる通り、冬休みの物語だ。とはいえ、冬休み限定、ではなくて、クリスマスからホワイトデーまでをひっくるめた“ウィンター”。坂木さんが「ホリデー」シリーズを執筆するきっかけは、宅配便という職種に興味を持っていたからだ、と『ワーキング・ホリデー』のあとがきで書かれているけれど、そもそも宅配便という職種に目を付けたそのセンスの良さ、が「ホリデー」シリーズを支えていると言っても過言ではないだろう。

 今ではすっかり私たちの生活に溶け込んでいる宅配便だけど、そもそもは、一九七六年一月二十日、大和運輸(現在のヤマトホールディングス)が「宅急便」のサービス名で行ったものが、その始まりだった。それまでは、個人の荷物を送るには、郵便局小包か、鉄道小荷物(いわゆる、チッキ、というやつですね。チッキをリアルで知っているのは昭和世代までかも)を利用するしかなかったため、宅配便の集荷、配達=“手から手へ”というのは、いわば黒船のようなものだったのだ。

 何より凄いのは、宅配便は進化し続けている、ということだ。手ぶらでスキー場やゴルフ場へ行けるようになった! 旅先からお土産を自宅へ送れるようになった! 生ものもクール便で送れるようになった! 受け取りたい時間を指定出来るようになった! ドライバーに直接連絡をとれるようになった! RPGゲームで主人公のレベルが上がって行くかの如く、宅配便のサービス内容は進化し続ける。そこにあるのは、荷物を送る側、受け取る側の身になって考える、というサービスの“本質”でもある。

 と、宅配便について長々と書いてしまったのは、「ホリデー」シリーズの肝が、この宅配便のドライバーというお仕事小説と、ヤマトと進の父子小説、この二つが絶妙に絡まり合っているところにあるからだ。元々お仕事小説には定評のある坂木さんだけれど、そこに父子小説、家族小説をも編み上げて、一冊のエンターテインメントにしているところが、坂木さん流。そこがいい。

 前作では、ゼロからスタートしたヤマトと進の父子関係が、本書ではどう進化していくのか、が読みどころの一つ。母親と二人で生きて来た進は、友人たちから「お母さん」とあだ名されるほど、家事に長けているのだけど、本書でもその「お母さん」ぶりは健在。久しぶりにヤマトと会ったクリスマス、ゴミの分別が出来ていないとぷりぷり怒るも、後に、分別法が変わったからだと知り、ほっと笑顔になる進の、可愛いこと! 夏に進と暮らすまでは分別どころか、ゴミ捨てそのものに無頓着だったのに、きちんと分別するようになったヤマト。こんなふうな、さりげない場面で、新米親子であるヤマトと進、二人が心を歩み寄らせていることを描写する、坂木さんの細やかさにしびれる!

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文春文庫
ウィンター・ホリデー
坂木司

定価:770円(税込)発売日:2014年11月07日

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