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震災で考えた「死ぬこと」と「時間」について

震災で考えた「死ぬこと」と「時間」について

「本の話」編集部

『幻影の星』 (白石一文 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

――今回の小説の中にも死についてのさまざまな考察と情報が記されていますね。作中にある梅枝母智夫氏のエッセイ『どうせ絶滅の星』にある69億人の死体の「量」に関しての考察や、実際に視聴もできる直径400キロの巨大隕石が地球に衝突する動画の紹介は、死に関してさらなる思考を促す、刺激的なものだと思いました。

白石 あの動画を観ると、隕石衝突の衝撃で「地殻津波」が起きて、地表が次々に破壊されていくのがわかります。海なんて一瞬にして蒸発している。あれをみると命の永遠性なんてことはとても信じられなくなりますね。命の循環そのものがまるごとなくなるようで……。

 あの動画は40億年前に起きたことをCGで再現したものですが、死について本当に考えるためには、40億年とはいわないけど、何万年・何10万年単位の長い時間が必要なのかもしれません。そちらの単位の時間のほうにこそ、本当の物語があるんじゃないかと思います。また今回原子力災害が起こったことで、例えば放射性物質の半減期のことだけでも、私たちは数100年、もしくは何万年単位でものを考えざるを得なくなった。このことは10年単位で人生を考えてきた私たちに、それとは違う長い時間の物差しが与えられたことだと思います。もちろん人間はすぐ死んでしまうのですが(笑)。

――時間については、作中で武夫が読む本川達雄さんの本にも興味深いことが記されていますね。心臓も感覚器官さえもないナマコが、ヒトとどのように違う時間を過ごしているのか……あの箇所ではナマコや人間だけでなく、生きる主体によって全く異なる時間が流れているということが示されていて、人間がペットの短命を嘆くことの愚についても触れられていますね。

白石 「確たる時間」がないということは以前から考えていたことで、今回の作品にもそのことを実感できるようにいろいろなレトリックを使って書いたつもりです。私たちはあまりにも便宜的な「時計の時間」に囚われすぎている。そんな便宜的なものにはこだわらないほうがいい。そう考えて、物語の始まりに「時計の時間」ではありえないことを起こしてみました。

――作品の中には「地面もゆらゆら、人間もゆらゆら、社会もゆらゆら」と書かれたところがありますね。その後は「それならば、時間だってゆらゆらしても不思議ではないだろう」と続いてます。時間だけでなく物質でさえも確たるものはない――と考える主人公の姿も、とても印象的でした。

白石 確たることや正しいことなんて本当はなくて、わからないことのほうが本当は普通なんです。わからないことがあるとどうしても人は不安になってしまいますが、そもそも自分がなぜ生まれたかということ自体、わからない(笑)。だからいろいろな事への関心や興味を、「正しい」と思われる1つところへ収斂させていくのではなく、もっと拡散させていって欲しい。1人1人が個性的に戸惑っている状態のほうが人はもっと自由になれる。この作品がそう思うきっかけになってくれればとても嬉しいですね。

幻影の星
白石一文・著

定価:1418円(税込) 発売日:2012年01月14日

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