レビュー

作家・誉田哲也の原石

『妖の華』 (誉田哲也 著)

文: 吉田 伸子 (書評家)

  漆黒の髪をなびかせて、紅鈴(べにすず)が夜の街を往く。闇に映える、透けるように白い肌。紅の唇。彼女が向かう先は、風俗店……。え? 風俗店?

 そう、本書のヒロイン紅鈴は、風俗嬢なのである。それもとびっきりの。彼女の体臭は、媚薬のように男たちを虜にする。どの店でもNo.1になってしまう売れっ子ヘルス嬢、それが紅鈴だ。

 物語の冒頭、隅田川を見下ろし、かつての相方、欣治(きんじ)に語りかける紅鈴の回想で、察しの良い読者にはぴんと来るはずなので明かしてしまうが、紅鈴は人間ではない。「闇神(やがみ)」と呼ばれる異形の種族だ。紅鈴が風俗嬢をしているのも、「闇神」故のことで、紅鈴は人間の生き血を吸わないと、生きていけないのである。だから紅鈴はヘルス嬢として客をとる。その「客」を恍惚状態に導いて失神させ、ダメージを与えない程度に、かつ、客に気付かれないように血を吸うために。

 物語は、池袋でモグリのヘルスを経営する佐竹が謎の「失血死」を遂げるという事件の発生と、その事件と前後して紅鈴が、欣治そっくりの男、ヨシキと偶然に出会ってしまうところから始まる。ヨシキはヒモを生業にしているしょうもない男で、女絡みのトラブルから、やくざに半殺しにされつつあったのを、欣治の面影を追うようにヨシキの跡をつけていた紅鈴が目撃してしまい、ついついヨシキを助けてしまうのだ。

 佐竹の怪死の謎を追うほうが物語のサイドAだとすると、紅鈴とヨシキの物語はサイドBである。サイドAでは、一連の「姫川玲子(ひめかわれいこ)シリーズ」をはじめとした警察小説シリーズでコアなファンを持つ作者らしさが随所にあらわれており、警察小説としてたっぷり楽しめるし、サイドBでは、紅鈴とヨシキの恋愛ものとしても楽しめる。恋愛もの、と書いてしまったけれど、「バディもの」といったほうが正しいかもしれない。最初は欣治と生き写しであるという、ただそれだけのことからヨシキと関わってしまった紅鈴だが、やがてヨシキとともに暮らすようになり、少しずつヨシキに心を開いていくようになる。この辺りのくだりは、男女の恋愛というよりも、あの青春剣道小説!の傑作である「武士道シリーズ」の早苗と香織の関係を想起させる。

妖の華
誉田 哲也・著

定価:730円(税込) 発売日:2010年11月10日

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