2014.04.15 インタビュー・対談

池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史
「教養主義からエンタメの時代へ(前編)」

文春文庫の2000年代・2010年代

池上冬樹×瀧井朝世×村上貴史<br />「教養主義からエンタメの時代へ(前編)」

池上冬樹(いけがみ・ふゆき)写真中央
1955年山形市生まれ。立教大学日本文学科卒。文芸評論家。週刊文春、朝日新聞、小説すばる等で活躍中。著書に『ヒーローたちの荒野』、編著に『ミステリ・ベスト201 日本篇』など。

瀧井朝世(たきい・あさよ)写真右
1970年東京都出身。慶応義塾大学文学部卒。出版社勤務を経て、独立。朝日新聞「売れてる本」、ananの書評等で活躍中。

村上貴史(むらかみ・たかし)写真左
1964年東京都生まれ。慶応義塾大学卒。書評家。ミステリマガジン等で活躍中。著書に『ミステリアス・ジャム・セッション』編著に『名探偵ベスト101』がある。

池上 文春文庫というと、保守本流のイメージが強かったですが、00年代以降のベストセラーを見渡してみると、やはり、教養主義からエンタメ志向に移り変わっているのをはっきりと感じますね。

 

村上 東野圭吾作品の強さは圧倒的ですが、1位が『手紙』(*1)とは意外でした。ガリレオのようなシリーズでもないですよね。

瀧井 謎解きの要素はないですが、殺人加害者の家族を描いた感動作で、私は読んで泣きました。

村上 2位の『探偵ガリレオ』(*2)は物理学を使って、それまで誰にも出来なかった次元で凄みを感じさせて画期的でした。

池上 3位の『容疑者Ⅹの献身』(*3)は、ガリレオの長所と、ノンシリーズの切なさや社会性が絶妙なバランスであわさった、東野さんの代表作と言えるでしょう。昔の作家たちは新しいことに挑戦したくなるとジャンルを変えていきましたが、東野さんはミステリーというジャンルの中で細かい手を尽くしている。読者がリピーターになっていくのも納得です。

 

瀧井 上位を東野作品が独占する中で、池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』(*4)が00年代6位、『オレたち花のバブル組』が10年代の1位になりました。昨年のドラマ「半沢直樹」の影響が大きいと思いますが、実は私は昔から半沢ファンでした。働く女性がどれだけ倍返ししたいと思っているか(笑)。

池上 孤軍奮闘するヒーローが果たして勝ち残れるのか、というオーソドックスなエンタメのイロハをきちっと押さえていて、テンポもいい。

村上 ご本人は500頁を必要最低限の言葉で一気読みさせたいと。

瀧井 今や小学生まで読んでいるそうです。池井戸さんの作品はどれも誠実に働こうという気持ちにさせるところがいいですね。

村上 『花バブ』の黒崎みたいな敵役がうまいですしね。『民王』(*5)も無茶苦茶な設定なのに人生讃歌というか、読後感が気持ちいい。

*1 強盗殺人で服役中の兄から弟の元に届く手紙。弟が幸せを掴もうとするたび過酷な運命が立ち塞がる。山田孝之主演で映画化。

*2 天才物理学者湯川学が常識を超えた謎に挑む連作ミステリー。福山雅治主演でドラマ化。

*3 天才数学者石神と、友人である湯川との息づまる対決。第134回直木賞、第6回本格ミステリ大賞受賞作。福山雅治主演で映画化。

*4 銀行員・半沢が活躍する、すべての働く人にエールを送る痛快エンタメ小説。堺雅人主演のドラマは、社会現象となった。

*5 巨大な陰謀に巻き込まれた総理の父とドラ息子が見つけた真実のカケラとは。痛快政治エンタメ。

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