2010.10.20 書評

かめばかむほど……

文: 吉本 由美 (エッセイスト)

『するめ映画館』 (吉本由美 著)

名作、話題作はお呼びじゃない

  もともと、村上春樹さんと都築響一さんとで、「当たり前でないところへ行って、ちょっと変なものを見て回る」、というコンセプトの“東京するめクラブ”を結成して、雑誌「TITLe」で二〇〇二年から二〇〇四年にかけて旅の連載をしていたんです。

 それで清里へ行ったとき、夜、することがなくて、なぜか都築さんが持ってきていた化け猫映画のビデオを部屋で観て盛り上がったのが、今回の「するめ映画館」のきっかけだったかもしれない(笑)。映画を観ながら言いたい放題、語り合ったのがすごく楽しかったんです。それで、「するめクラブ」の次は「するめ映画館」で、多忙な村上さんや都築さんに代わって、私が色々なゲストをお招きし、その方の「するめ映画」を一緒に観ることになりました。名作や話題作ではなく、ちょっと地味めの、でも何度も繰り返し観て「するめ」のように味わっている、自分だけの偏愛映画を挙げていただいたんです。

 もともと、映画を観るのは大好きでした。学生の頃、「スクリーン」編集部で二年間編集見習いをしていたことがあるんです。朝行ってお掃除をしたあとは、午後一時と三時に試写があって、映画がタダで観られる。夜の試写があれば一日三本。嬉しくて嬉しくて、夢中で観ていました。折しもアメリカン・ニューシネマの台頭期で、あの二年間でものすごくたくさんの作品を観たと思います。

 でも、自分で観ようと思う映画はいつも決まっていて、たとえば子供時代、エルビス・プレスリーの映画は全部観ていても、西部劇は全然観ていなかったり。それは馬が撃たれたり転んだりして死ぬのが嫌だったからなんですが(笑)、とにかく、自分の映画の好みがいかに偏っていたかというか、皆さんの映画を観る“ツボ”が多岐にわたっているということが、この連載を始めてよくわかりました。

  今までなら絶対に観なかったような映画、たとえば武田花さんが挙げられた「ノスフェラトゥ」や、安西水丸さんの「飛べ! フェニックス」など、面白い作品をたくさん教えて頂きました。川本三郎さん解説による西部劇の楽しみ方、熱い語りの都築さんが選んだ「眠狂四郎 人肌蜘蛛」、連載から本にする間に所有するDVDが六百本から七百本に増えたという坂川栄治さんのお薦め「太陽の誘い」は、ある意味自分の趣味とは正反対の作品だったので、「そういう映画の味わい方もあるのか」という発見もありました。

するめ映画館
吉本 由美・著

定価:1400円(税込) 発売日:2010年10月28日

詳しい内容はこちら