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私は獏パーンチ・ドランカー

私は獏パーンチ・ドランカー

文:山口 琢也 (晴明神社 宮司)

『陰陽師 平成講釈 安倍晴明伝』 (夢枕獏 著)

出典 : #文春文庫
ジャンル : #歴史・時代小説

 さて、獏さんを筆頭に多くの方が晴明公を描かれたお蔭で、晴明神社も大変な賑(にぎわ)いを見せている。当初その参詣者の増加になかなかついて行けずにいたが、今年あたりから態勢が整ってきた。しかし、此処(ここ)は建物の色が金や赤でもないし古色蒼然とした殿舎も無いので、見て楽しい所ではない。御祭神のプロフィル、時代背景といった予備知識が無いと大して意味を持たない観光施設かも知れない。それは大型バスでやって来る熟年の団体を見るとそんな気がする。でも今、この本を買って読んでいる貴方(あなた)は勿論(もちろん)、立ち読み中の貴方は購入して読了すれば充分に此のやしろは素晴らしい神社になり、お出でいただいた折に神としての晴明公を体感する資格をお持ちの筈(はず)である。この本のカバーを彩る南伸坊さんの描く晴明さんとは違ったキャラかも知れないが、そのギャップを楽しむもよし、“晴明さんについてもっと知りたいシンドローム”に陥るもよし。京都が二倍面白くなること請け合いである。

 折しも今秋は、獏さん原作の映画(編集部注:映画『陰陽師II』)も公開されるようだし、神社も壱千年記念行事を十月に盛り沢山で企画している。その間に獏さんがお参りに来られるかも知れないので、ナマ夢枕獏に会えるチャンスが。その時この私めは「解説原稿では、くだらん事ばかり書きやがって!!」とポカスカやられていそうなので心ある方は、人間の盾となり守って頂く様お願いしておく。しかし乍(なが)ら、自然を愛し人を愛す文豪は、きっとこの稿を見てもF社の通販で手に入れたバランスチェアに座して、ニコニコされているだろう。

 漏れ承れば、書物はあとがきから読まれるという。当初の計画では、私の解説文に依(よ)りこの本が爆発的な売り上げを記録→不況に喘(あえ)ぐ出版業界の救世主出現→私も文章をころがし巨万の富を築くヨロコビ組の仲間入り――という大胆なシナリオであったが、所詮は藤四郎(とうしろう)である。ここは、夢枕獏さんの才筆と晴明公の大稜威(おおみいつ)が次なる壱千年、三十一世紀までも輝き続けることを祈り上げ駄文の結びとしたい。

 

  平成十五年三月

文春文庫
陰陽師
平成講釈 安倍晴明伝
夢枕獏

定価:825円(税込)発売日:2015年06月10日

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