2016.10.06 書評

一流のジャーナリストたちが結集。徹底取材でトランプの全てが暴かれる!

文: 坪井 真ノ介 (文藝春秋)

『トランプ』 (ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー 著/野中香方子、池村千秋、鈴木恵、土方奈美、森嶋マリ 訳)

『トランプ』 (ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー 著/野中香方子、池村千秋、鈴木恵、土方奈美、森嶋マリ 訳)

 本書は、調査報道の雄としても知られるワシントン・ポスト紙が、3ヶ月にわたって20人以上の記者を投入し、ドナルド・トランプの全人生を暴き出した一冊だ。ここでは、なぜ私たちがこの本を日本で出版するに至ったか、その経緯を紹介したい。

 私たちがこの本と出会ったのは、まだ肌寒い、今年の3月のことだった。新たな本の企画を求めてニューヨークを訪れ、現地の出版社や権利者をまわっていた私たちは、その出張の最終日、ロックフェラーセンター近くの寿司屋にいた。アメリカの大手出版社、サイモン・アンド・シュスターのポール・オハンランとともに昼食をとるためだ。

 日本とアメリカ、それぞれの出版業界の近況について情報交換をしながら、寿司をつまむ。終始和やかな雰囲気で食事を終え、温かいお茶を啜っていると、ポールが何気なく一枚の紙を差し出した。

「ところで、この企画に興味はないか?」。渡されたのは、メールの文面を印刷しただけの素っ気ない紙だった。だが、それに目を通した瞬間、私たちは思わず身を乗り出していた。「ワシントン・ポスト紙が総力を挙げて、トランプの全人生を追う。まだ原稿はないが、既に20人以上の記者で組まれたチームが取材を始めている。その記者のリストがこれだ」。するとポールは、また新たな紙を取り出した。そのリストの中にはある記者の名前があった――ボブ・ウッドワード。1972年、ニクソン大統領を辞任に追い込んだ「ウォーターゲート事件」をスクープした、アメリカを代表する伝説のジャーナリストだ。

 この出張中、ほぼ全てのミーティングで、大統領選にまつわるニュースが話題にあがった。しかし、トランプが共和党の大統領候補に指名され、ヒラリー・クリントンとの一騎打ちに臨んでいる今では想像し難いかもしれないが、3月時点のニューヨークでは、まだ「トランプ現象はいずれ収まるだろう」と見る向きも多かった。「トランプが当選したら、日本に引っ越すわ」と笑いながら冗談を飛ばす人もいたくらいだ。

 実際、予備選の有力候補と見られていたジェブ・ブッシュやマルコ・ルビオは既に撤退を表明していたものの、テッド・クルーズは依然しぶとくトランプに食らいついていた。そして、共和党内では「反トランプ、クルーズ支持」の動きが盛り上がり、着実にトランプ包囲網が築かれようとしていた。そうした動きの中で、「トランプが失速するのも時間の問題」と見る人は、想像以上に多かったのだ。

 だが私たちが、ダウンタウンにオフィスを構える独立系出版社、セブン・ストーリーズ・プレスを訪れたときのこと。ここは、ノーム・チョムスキーの著作を刊行するなど、左派的な政治思想で知られる出版社だ。その創業者であるダン・サイモンに大統領選の話題を振ってみると、「民主党のバーニー・サンダースを支持する」との答えが返ってきた。

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トランプ
ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー 著/野中香方子、池村千秋、鈴木恵、土方奈美、森嶋マリ 訳

定価:本体2,100円+税 発売日:2016年10月8日

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