- 2015.06.21
- インタビュー・対談
京都で勃発!? 「シャーロック・ホームズ譚」見立て殺人! 気鋭ミステリ作家が描く新世代推理劇と〈超人探偵〉とは
「本の話」編集部
『キングレオの冒険』 (円居挽 著)
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
――まずは本作誕生のきっかけからお聞かせください。
円居 元々好きなものを好きにアレンジして書く作風でしたが、ドラマの『SHERLOCK』を観てホームズ譚のアレンジはやり甲斐がありそうだなと感じたのがきっかけです。また、それとは別に、本作の主人公・獅子丸と助手・大河の物語をどこかで書きたいと思っていたのもありました。
一方で現代の日本にホームズのような、何をしても許される名探偵を出すのはそれなりにハードルが高いなと感じていたのですが、日本探偵公社という設定を持ち込むことで解決しました。そういう背景で誕生したのがこの『キングレオの冒険』です。
個人的には良いタイミングで手持ちのカードが揃ったからこそ書けた作品だと思います。
――ミステリファンにとってシャーロック・ホームズというのは特別な存在です。挑むには覚悟も必要だったのではないでしょうか。そもそも円居さんご自身はどんなふうにホームズに親しんでこられたのでしょうか。
円居 子供の頃は人並みにホームズ譚に夢中になったものですが、大人になるにつれ世の中には自分より遥かに熱心なシャーロキアンが多いということを知りました。熱心なファンの多い作品を扱う怖さは承知しつつ、気楽にやろうと決めて書きました。
――数あるお話の中からどれを選択するか、ご苦労も多かったのではないかと思います。
円居 毎回「この事件は正典のあの話とそっくりだ」という展開である以上、本来なら獅子丸たちが「あの話ではああだった。しかしこの事件はここが違う」と原典のネタをバラしながら推理するシーンがあってしかるべきだったんですが、やはり未読の方の楽しみを奪わないのがミステリ作家としての仁義だと考えて極力カットしました(お陰で元ネタの選択に難儀するようになりました)。
結果的に当初の想定より不自由な思いをしましたが、その反面、事件がホームズ譚に因んでいることに意味を持たせることができたので、そこは良かったと思いました。
――名探偵・獅子丸と助手の大河、ふたりは「日本探偵公社」に所属しています。この世界ではどんなふうに犯罪が取り締まられ、探偵には他にどんな人たちがいるのでしょうか。
円居 この世界では探偵は最難関の国家資格で、現衛庁という組織によって厳しく管理されているという設定です(探偵は警察の捜査を正しく導いたり、時に犯罪者を直接捕まえたりもします)。
しかし現衛庁の主な管轄は首都圏で、単独で日本全国をカバーすることはできません。なので半官半民の企業である日本探偵公社に多くの探偵を任せることで問題を解消しています(ちなみに現衛庁がどのように探偵を育成して、どんな犯罪者と戦っているかについては、今春、新潮文庫nexより刊行された『シャーロック・ノート』をお読みいただけるとその一端が解ると思います)。
公社の探偵も基本的には現衛庁の探偵と変わりません。しかし公社も企業である以上は利益を追求しなければならず、探偵たちには継続的にある程度の売上を達成することが求められています(世知辛いですね)。その反面、公社に利益をもたらすほど地位が上がっていくという仕組みもあります。中でもトップ10の探偵は十格官(デカロゴス)と呼ばれており、獅子丸はその第三席です。
なので並の犯罪者では獅子丸の相手になりません。となると獅子丸を満足させられるのは天才的な頭脳を持った犯罪者か十格官ぐらいしかいないわけで……今回はその辺も作品の根幹に関わってきます。お楽しみに。
――最後に、これから本作を読んでくださる皆様にメッセージをお願いします。
円居 名探偵というのは選ばれし存在です。しかしそれは同時に、解り合える者も僅かということを意味します。名探偵は孤独と無縁ではいられないのです。だから獅子丸は近しい者、親しい者のことになると本気になります。まあ、時にそれがいきすぎて、事件より助手の大河の私生活の行方の方が関心事になってたりもしますが……。
最初は完璧な超人として書き始めた獅子丸ですが、回を追うにつれどんどん人間らしい一面を覗かせるようになりました。その辺の変化は作者である私も書いていて面白かったですね。
名探偵と助手の関係性、そして選ばれし存在の人間らしい顔を楽しんでいただけると幸いです。