2015.11.20 インタビュー・対談

松永太、畠山鈴香、山地悠紀夫、角田美代子……彼らはなぜ人を殺したのか

聞き手: 「本の話」編集部

『殺人犯との対話』 (小野一光 著)

松永太、畠山鈴香、山地悠紀夫、角田美代子……彼らはなぜ人を殺したのか

今なお頻発する凶悪殺人。しかし、報道されるのは事件の一端に過ぎない。長きにわたり数々の殺人事件を取材してきた小野一光さんは、10人の殺人犯へと肉薄することで、その事件の全貌を克明に描き出した。

『殺人犯との対話』 (小野一光 著)

――今回、殺人犯との「対話」をテーマに据えられた経緯を教えてください。

 事件を世間に知ってもらうためには、殺人犯がどういう人間か、犯行に至る経緯、被害者との関係などを正確に伝えなければなりません。でも新聞や裁判資料などを読んでも、彼らがどういうことを考えていたのか、その感情の揺れ動きまでは捉えきれない。長いこと殺人事件を取材して、殺人を犯した本人が語ることで事件の本質が見えてくるのではないかと感じていました。肉声を含めた彼らの人間性を描くことで、より事件を掘り下げて伝えられると思ったんです。

――小野さんは殺人犯の共通点のようなものはあると感じましたか?

 共通するものがあるとすれば、殺人の動機がきわめて身勝手、自己本位である点です。取り上げた10人の殺人犯は、殺した相手が憎かったわけではない。もちろんほかには憎しみという面がクローズアップされる事件もあるけれど、彼らの場合は自分のために殺人という行為を行っていると考えられる。ただ、一概に「殺人犯」といっても、それぞれ違った特徴があります。実際の事件から想像できる性格の人間もいれば、乖離した人間もいる。たとえば、北村孝紘(大牟田連続4人殺人事件)に会った時、僕は「殺人犯」に抱いていた固定観念が覆されました。彼は非人間的な犯行の実行犯でありながら非常に人間的な存在だった。一方で松永太(北九州監禁連続殺人事件)の罪悪感のない不自然な明るさ。あれほどの凶悪犯が、会った時から僕のことを「先生」と呼んで、饒舌に話しかけてくる様子には底知れない恐ろしさがありました。そして「私は生まれてくるべきではなかった」「『生』そのものが、あるべきではなかった」という山地悠紀夫(大阪姉妹殺人事件)のように、ある意味絶望の末に諦念を抱いた人間もいるんです。

取材中の著者(左から3人目)秋田魁新報2006年6月9日

――前作『家族喰い』(太田出版刊)のテーマでもある「尼崎連続変死事件」の角田美代子を本作でも取り上げられています。

 発生から時間が経ち、新たな事実が明らかになってきています。特に角田美代子の「金庫番」だと考えられていた妹の三枝子が若いころから売春を強要されていて、実は最初に美代子に搾取された人物だった。それは当時の取材では全く分からなかったことです。やはり新たな事実が出てきたら訂正すべきものは訂正して、より「本当に起こったこと」に近づけていくことが大事だと思っています。まずは正確であることを心がけ、善悪の一面的な報道でなく、常に冷静な視点を忘れないようにしています。

【次ページ】

殺人犯との対話
小野一光・著

定価:本体1,450円+税 発売日:2015年11月14日

詳しい内容はこちら


こちらもおすすめ
インタビュー・対談対談 杉原美津子×入江杏 喪失から甦生へ――「新宿西口バス放火事件」と「世田谷一家殺害事件」を語り合う(2014.08.18)
書評獄中手記三百枚が語る「真実」(2011.03.20)
書評死刑と裁判員と村上春樹(2009.07.20)
書評吉村昭『羆嵐』のモデルとなった三毛別事件の真実を生々しく綴る大傑作ノンフィクション(2015.05.03)
書評老人を狙う「新たな」犯罪 その悪質かつ巧妙な手口と、悪人たちの生々しさ(2014.10.09)
書評異能の法律家による「告発書」(2009.01.20)
インタビュー・対談はじめて明かされる、 死者たちのヒロシマの物語(2015.05.31)
書評裁判員制度開始までにできること(2007.05.20)
書評憎悪と不寛容の気分に満ちた日本へ(2015.05.27)