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わたしの宝石=朱川湊人作品

わたしの宝石=朱川湊人作品

文:植田 泰史 (共同テレビジョン 第1制作部 ディレクター)

『わたしの宝石』 (朱川湊人 著)


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

『花まんま』は、あるテレビニュースを見たことがきっかけで創作した、と以前朱川さんに伺った。

 それは、理不尽な事件で殺害された女性の父親のインタビュー。父親は、娘が苦しんで死んでいった時、知らずに昼食を楽しんでいた。そんな自分が憎くて許せなくて、以来食事が喉を通らなくなってしまったという。

 朱川さんは、どこかでその父親の目に触れることを願って『花まんま』を書いた。「自分を責め続けるあなたを、亡くなった人はきっとあの世で心配しているよ」というメッセージを込めて。

 その父親が『花まんま』を読んだかは分からない。でも、朱川さんのメッセージは同様な気持ちを持つ多くの人に届き、その人の人生は物語に触れる前と後とでは変わったに違いない。

 良い小説、面白い小説はよくあるが「人生に効く」小説はなかなかない。しかし朱川作品は、「いい話」であれ「悲しい話」であれ「怖い話」であれ、それを必要とする人に確実に、効く。朱川さんがどの作品にも「こういう人の心に届けたい」と、想いを乗せているからだと思う。

 

 勿論、新作『わたしの宝石』も同様だ。

 6編の作品の中に、誰もが必ず「人生に効く」物語を探し出すことだろう。

 私は「わたしの宝石」のある一編に出てきた「誠を尽くす」という言葉を日に一回は使うようになった。

 例えば「これではまだ誠を尽くしたとは言い難いな」とか「結果は伴わなかったけど誠を尽くしたからいいや」などというように。

 自分で誠を尽くしてさえいれば良いのだ。他人からの評価や自分ではどうしようもないことが、どうでもよくなる。この言葉で人生かなり楽になった。

 

 私にとって、朱川作品は「宝石」である。

 ただその「宝石」を隠匿し一人で楽しむつもりはない。

「この宝石美しいよね」と全国の人々と共有したい。

 だからまた、朱川作品のドラマ化・映画化を画策するのである。

植田泰史

植田泰史

1967年生まれ。1990年日本大学芸術学部卒業、(株)共同テレビジョン入社。
現在、第1制作部所属(ドラマ・映画制作)。
「世にも奇妙な物語」で演出デビューし、以来20本を手掛けている。他の演出作として「アンフェア」、「アテンションプリーズ」、「遅咲きのヒマワリ」、「よろず占い処 陰陽屋へようこそ」(以上・フジテレビ)「死の臓器」(WOWOW)などがある。

わたしの宝石
朱川湊人・著

定価:本体1,600円+税 発売日:2016年01月13日

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