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憎悪と不寛容の気分に満ちた日本へ

憎悪と不寛容の気分に満ちた日本へ

文:安田 浩一 (ジャーナリスト)

『ヘイトスピーチ――「愛国者」たちの憎悪と暴力』 (安田浩一 著)


ジャンル : #ノンフィクション

属性だけで人を孤立させ、偏見を拡散させる

安田浩一(やすだこういち)1964年生まれ。静岡県出身。「週刊宝石」「サンデー毎日」記者を経て2001年よりフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。主著に『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)、『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)などがあり、2012年『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』(講談社)で第34回講談社ノンフィクション賞受賞。2015年には「ルポ 外国人『隷属』労働者」で第46回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞した。

「このまま、この国で生きていくことができるんだろうか」

 在日コリアンである私の知人は、恐怖と同時に先の見えない不安を覚えたという。

「友人も、同僚も、本音では私が在日であることを嫌悪しているのかもしれないと思うようになった」

 私にそう漏らした在日コリアンもいる。

 ヘイトスピーチの本質は、おそらくそこにあるのだと思う。世の中を分断し、属性だけで人を孤立させ、そして偏見を拡散させる──つまり、必ず「被害者」を生み出すものなのだ。本書『ヘイトスピーチ――「愛国者」たちの憎悪と暴力』において、私がもっとも訴えたかったのは、この点だ。

 いま、日本は憎悪と不寛容の気分に満ちている。差別デモだけではなく、ネットで、書籍で、テレビで、飲み屋の片隅で、あるいは政治の場で、差別が扇動されている。

 私はこのような現場を追い続けてきた。できるだけ、差別する側の主張にも耳を傾けてきた。だが、彼ら彼女らが語れば語るほどに、私の気持ちはザラついた。目の前に広がる景色から色彩が消えていくような感覚を覚えた。

 私は生まれ育った日本を大事に思っている。だからこそ地域や社会を理不尽な差別や憎悪から守りたいと思っている。差別に関わる多くの“事件”や風景を拾い上げながら、それでもやはり、私はこの国を好きでい続けたい。

 そうした心情も含めて、本書から何物かを読み取っていただければ幸いだ。

文春新書
ヘイトスピーチ
「愛国者」たちの憎悪と暴力
安田浩一

定価:880円(税込)発売日:2015年05月20日

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