2010.06.20 インタビュー・対談

“巣立ち”の象徴を書きたかった

聞き手: 「本の話」編集部

『ぼくらは海へ』 (那須正幹 著)

“巣立ち”の象徴を書きたかった

──日本児童文学史上最大のベストセラー「ズッコケ三人組」シリーズを生んだ那須さんの、問題作にして“裏代表作”と呼びたい『ぼくらは海へ』が、発表(一九八〇年)から三十年を経ての文春文庫化です。   さまざまな家庭の事情を背負った五人の小学六年生男子。彼らが初夏のある日、船作りを始める――。この物語を思い立ったきっかけを教えてください。

那須  四十年近く前、僕が三十歳の頃の話です。当時僕は広島市の実家で父の書道塾を手伝っていたんですが、通ってくる子どもの中に、「今、船を作ってるんだ」という小学六年生の男の子がいました。

  誘われて太田川の放水路に見に行ったら、建築用のコンパネを貼り合わせた一人乗りの小舟で。「浮かべてみたけど水が漏るんだ」と不機嫌そうに言いながら、彼は仲間と一緒に黙々と隙間をパテで埋めている。その光景が非常に印象的でした。子どもたちが船を作り、海へ出て行く話を書きたい。漠然と、そう思ったんです。ちなみにこの小舟は、作中で最初に出てくる「シーホース号」として生かされます。

──少年たちの船作りの舞台となる埋め立て地ですが、群生するセイタカアワダチソウ、彼らが“アパラチア山脈”と呼ぶ土砂の山。物語が生まれる予感のする場ですね。

那須  当時、広島市は西部開発事業として臨海地区の埋め立てを進めていました。しかしその頃、何らかの理由で一年ほど工事がストップしていた。それもあってか実に荒涼とした印象を与える、広大な土地でね。実家から自転車で三十分ほどだったので、ときどき散歩に行っていたんですが、ここは作品の舞台になるな、と感じ、実際に書き始めるまでずっと温めていました。

──大人びた秀才の大道邦俊(だいどうくにとし)、妹思いの繊細な菅雅彰(すがまさあき)、家が貧しく、異分子的存在の多田嗣郎(ただしろう)など、登場する少年たちが実に個性にあふれ、魅力的です。

那須  実は、少年それぞれに実在のモデルがいます。主に書道塾の生徒たちで、なかには実名を使わせてもらった子もいるんですよ。七八年に「ズッコケ三人組」シリーズがスタートしていましたから、今度はもう少し人数を増やして、誰が主人公というわけでもない、群像劇にしたかった。

──しかも彼らのキャラクターは、児童文学の類型からはみ出しています。

那須  それまで児童文学に描かれる子どもは、一言でいうなら「健気(けなげ)」な子が多かったですよね。でも僕は、健気な子どもは好きじゃない。ひと癖もふた癖もある子が好きです。子どもは純粋で汚れを知らない存在、なんていう認識もまったくありません。子どもはときに裏切るし、嘘もつく。僕のそういう子ども観は、「ズッコケ」シリーズでも折に触れ、出してきました。

ぼくらは海へ
那須 正幹・著

定価:620円(税込) 発売日:2010年06月10日

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