2015.07.11 特集

電子書籍で「戦後」を読む 70年の70冊
スターが輝いた――昭和30年代

文: 文藝春秋 電子書籍編集部

経済白書が「もはや『戦後』ではない」と謳い上げたのは昭和31年。そして美智子様、長嶋茂雄、吉永小百合、石原裕次郎、クレージーキャッツといった新時代を象徴するスターたちが陸続と姿を現します。掉尾を飾ったのは東京五輪。まさに戦後復興がなった10年間。一方でジョン・F・ケネディ、浅沼稲次郎が斃れた、テロルの時代でもありました。

昭和30年代のできごと

1955(昭和30)年 55年体制成立
『この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義 日本篇』(池上彰)
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1956(昭和31)年 石坂泰三、経団連会長に就任
『もう、きみには頼まない――石坂泰三の世界』(城山三郎)
詳細
1957(昭和32)年 松本清張、「点と線」連載開始
『点と線』(松本清張)
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1958(昭和33)年 皇太子妃に正田美智子さん決定
『ミッチー・ブーム』(石田あゆう)
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1959(昭和34)年 長嶋茂雄、天覧試合でサヨナラホームラン
『プロ野球「衝撃の昭和史」』(二宮清純)
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1960(昭和35)年 浅沼稲次郎刺殺事件
『テロルの決算』(沢木耕太郎)
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1961(昭和36)年 「シャボン玉ホリデー」放映開始
『わかっちゃいるけど… シャボン玉の頃』(青島幸男)
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1962(昭和37)年 「キューポラのある街」公開
『昭和が明るかった頃』(関川夏央)
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1963(昭和38)年 米ケネディ大統領暗殺
『ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言(上下)』(フィリップ・シノン)
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1964(昭和39)年 東京オリンピック開催
『東京五輪1964』(佐藤次郎)
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1955(昭和30)年 55年体制成立

『この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義 日本篇』
(池上彰 単行本刊行 2013年)

『この日本で生きる君が知っておくべき「戦後史の学び方」 池上彰教授の東工大講義』

 政権与党の日本民主党(鳩山一郎総裁)と自由党(緒方竹虎総裁)が合併、自由民主党が誕生した。対する日本社会党も右派、左派が統一。これにより「改憲・保守・安保護持」の自民党vs.「護憲・革新・反安保」の社会党という二大政党対立の構図が成立した。いわゆる55年体制である。

 3年後に実施された総選挙では定数467のうち自社両党で97%を占めた。しかし、以降1993年の細川政権成立まで政権交代はおこらず、自民党が38年間政権を握り続ける。その陰で社会党は徐々に力を失っていくことになる。

 2009年には民主党政権が誕生したが、「政策の違う二つの政党が国民に選択を迫る」という真の二大政党制の姿にはほど遠い。その裏には「どの党も所詮同じ」という国民の諦念がある、と池上氏は指摘する。

「55年体制から連立政権ばかりになったわけ」をはじめ、「どうやって敗戦の焼け跡から再生したのか?」「『軍隊ではない』で通用するのか」等々、“池上節”が冴え渡る戦後史講義の実況中継、全15講。自国の歴史から学ぶ力をつけることは、現代を生きる上で必須の教養だ。

1956(昭和31)年 石坂泰三、経団連会長に就任

『もう、きみには頼まない――石坂泰三の世界』
(城山三郎 単行本刊行 1995年)

『もう、きみには頼まない――石坂泰三の世界』

 東京帝大卒業後、逓信省に入省。第一生命社長を経て戦後は東芝社長として同社の再建を成し遂げた石坂泰三(1886~1975)は、この年、石川一郎の後を襲って経済団体連合会(経団連)会長に就任した。以降4期12年にわたる在任期間は日本の高度成長期と軌を一にする。財界にとどまらないその広範な影響力により、“財界総理”と称された。

 戦後を代表する経済小説の書き手であった城山三郎は、なぜ石坂泰三を描いたのか。「あとがき」にこう記している。

「現職の大蔵大臣や総理に向かって、『もう、きみには頼まない』という啖呵の切れる気骨人だったということだけのためではない。(略)存在感のある人間が、いま求められている。(略)そうしたことから、わたしは腰を上げて調べはじめ、やがて、気骨や拳骨の人とか、存在感のある人とかいうだけでなく、純愛物語といってよいほどの妻想いや、無所属の時間を楽しむ余裕や、老年に至るまでの複々線的な生き方等々を知ることになった」

1957(昭和32)年 松本清張、「点と線」連載開始

『点と線』
(松本清張 単行本刊行 1958年)

『点と線』

 1953年、「或る『小倉日記』伝」で第28回芥川賞を受賞した松本清張は、やがて推理小説に目を向けた。そしてこの年、「旅」誌に「点と線」の連載を開始。翌年単行本が刊行されるや、「眼の壁」とともにベストセラーとなる。清張を嚆矢とし、水上勉、有馬頼義らへと連なる「社会派推理小説」、すなわち社会性のあるテーマを中軸に据えたミステリの時代の幕開けである。

 博多・香椎海岸で発見された、某省の課長補佐と料亭の女の死体。一見して疑いようのない心中事件と思われたが、その裏には汚職をめぐる恐るべき罠が隠されていた――。

 推理小説ファンなら知らぬ者はない“空白の4分間”に代表される時刻表を駆使した精緻なトリックと、息をのむアリバイ崩し。日本推理小説史の記念碑的作品である本作にはまた、昭和30年代初頭という時代の匂いが色濃く漂っており、読者を瞬時に60年前へトリップさせてくれる。

1958(昭和33)年 皇太子妃に正田美智子さん決定

『ミッチー・ブーム』
(石田あゆう 文春新書刊行 2006年)

『ミッチー・ブーム』

 11月27日、宮内庁は記者会見を開き、皇太子妃に日清製粉社長・正田英三郎氏の長女、美智子さんが決定したことを発表した。翌年4月10日のご成婚で最高潮に達する、一連のミッチー・フィーバーの幕開けであった。

 皇太子とのテニスコートの出会い。民間出身であること。均整のとれたスタイルとファッション。卓越した英語力。米「ニューズウィーク」誌で「完全な芸術品」と紹介された正田美智子さん。

「皇太子と美智子妃の恋愛から結婚に至った過程、若い二人の家庭形成、子育て方法やライフスタイルは、同世代の話題となったが、美智子妃はそれだけではなく、若い女性たちにとっての等身大のファッション・モデルとなった。彼女が身にまとう『ロイヤル・ファッション』報道は、戦後の皇室が欲した『開かれた皇室』イメージを広く世に意識させることとなる」(「プロローグ」より)

 戦後の日本人の意識と皇室観を変えた女性の鮮やかな出現を、気鋭のメディア社会学者が当時の報道からたどり直し、その言動とファッションが日本人に与えたものが何だったのかを探り出す。

1959(昭和34)年 長嶋茂雄、天覧試合でサヨナラホームラン

『プロ野球「衝撃の昭和史」』
(二宮清純 文春新書刊行 2012年)

『プロ野球「衝撃の昭和史」』

 昭和天皇・皇后両陛下が巨人対阪神11回戦を観戦に、後楽園球場を訪れた。1959年6月25日。今に至るも日本プロ野球史上唯一の天覧試合である。

 4対4で迎えた9回裏無死。打席に立ったのはプロ2年目、23歳の長嶋茂雄。阪神の怪物ルーキー村山実の投げた内角高めのストレートをフルスイングし、レフトスタンド上段に運んだ。サヨナラホームラン。

 スポーツジャーナリストの二宮氏は、本書で天覧試合をはじめ、78年日本シリーズにおける大杉勝男の“疑惑のホームラン”、79年日本シリーズ“江夏の21球”など、球史に残る12の伝説を取り上げ、新事実を発掘している。

 実は、天覧試合では両陛下の観戦終了時刻は午後9時15分に設定されていたという。長嶋のサヨナラが飛び出したとき、後楽園球場の時計は9時12分を指していた。余すこと、わずか3分。もし両陛下退出後のホームランだったら、これほどまでの伝説にはなっていなかったに違いない。ミスターは当時から“持っている”男だった。

1960(昭和35)年 浅沼稲次郎刺殺事件

『テロルの決算』
(沢木耕太郎 単行本刊行 1978年)

『テロルの決算』

 10月12日、日比谷公会堂で自民、社会、民社の3党党首立会演説会が開催された。西尾末広(民社党委員長)に続いて演壇に立ったのは社会党委員長・浅沼稲次郎、61歳。“演説百姓”の異名を取った浅沼は、野次で騒然とする中、懸命に声を張り上げ続けた。午後3時4分。学生服姿の少年が突如壇上に駆け上がるや、演説中の浅沼に体当たりした。少年、山口二矢の手には、短刀が握られていた――。

「山口二矢について書いてみたい、とながく思いつづけてきた。(略)ひたすら歩むことでようやく辿り着いた晴れの舞台で、六十一歳の野党政治家は、生き急ぎ死に急ぎ閃光のように駆け抜けてきた十七歳のテロリストと、激しく交錯する。その一瞬を描き切ることさえできれば、と私は思った」(「あとがきI」より)

 気鋭のノンフィクションライターだった沢木氏が、おのれの20代の「決算」と位置づけ、浅沼稲次郎刺殺事件を描き切った本作は、発表以来、多くの若者の心を揺さぶり続けてきた。沢木耕太郎の代表作にして日本ノンフィクションの金字塔。第10回大宅壮一ノンフィクション賞受賞作。

1961(昭和36)年 「シャボン玉ホリデー」放映開始

『わかっちゃいるけど… シャボン玉の頃』
(青島幸男 単行本刊行 1988年)

『わかっちゃいるけど… シャボン玉の頃』

 メイン出演者はザ・ピーナッツ、ハナ肇とクレージーキャッツ(植木等、谷啓、犬塚弘、安田伸、桜井センリ、石橋エータロー)。そこに多彩なゲストが花を添え、コントや歌、トークが繰り広げられる。「シャボン玉ホリデー」(日本テレビ)こそ現代のバラエティ番組の源流であり、60年代――テレビの黄金時代の象徴だった。

 同番組に構成作家として参画したのが、後の直木賞作家にして東京都知事、青島幸男、当時29歳。コント台本に腕を振るうのみならず、自らカメラの前に立ち「青島だァ!」とギャグを放つ。時代の空気を鋭敏にとらえ、それを笑いに転化するすべを知り尽くしていた青島は、またたく間にテレビの寵児となった。

 本書は、青島が「シャボン玉ホリデー」を中心に、テレビ黄金時代のエピソードを綴った抱腹絶倒の一冊。坂本九、中尾ミエ、クリント・イーストウッド、なべおさみ、小松政夫、水原弘、勝新太郎、中山千夏、朝丘雪路、永六輔、前田武彦、大橋巨泉、野坂昭如、井上ひさし……みんな出てくるのだ!

1962(昭和37)年 「キューポラのある街」公開

『昭和が明るかった頃』
(関川夏央 単行本刊行 2002年)

『昭和が明るかった頃』

 埼玉県川口市を舞台にした青春映画「キューポラのある街」(日活/浦山桐郎監督)。ヒロインの可憐な姿に、観た者は皆、息を呑んだ。吉永小百合、17歳。小学生の頃から子役として活動してきた彼女は本作で一躍スターとなり、時代を象徴する映画女優へと成長していく。

 関川氏は本書でこう書く。

「『石原裕次郎という物語』はこれまで何度も言及されたが、『吉永小百合という物語』は読み解かれることがなかった。彼女の『物語』は忘れられた。しかし、五〇年代後半から六〇年代前半にかけて活躍した映画俳優には当時の若い日本人が、『世界』を見すえた緊張感のもとに育てた希望が託され、日活映画には、たとえ荒唐無稽のうらみはあっても、時代精神がたしかに反映されている」

 巷には未だ貧しさが残り、社会は大規模な変質を強いられつつあった。こうした世相を最も色濃く反映したのが映画であり、日活という映画会社と、石原裕次郎、そして吉永小百合というスターだった――。

 現代社会の原型を形成した、昭和30年代の時代精神を描く長編評論。第19回講談社エッセイ賞受賞作。

1963(昭和38)年 米ケネディ大統領暗殺

『ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言(上下)』
(フィリップ・シノン 単行本刊行 2013年)

『ケネディ暗殺 ウォーレン委員会50年目の証言(上)』

 11月22日、テキサス州を遊説中のジョン・F・ケネディ米大統領が銃弾に倒れた。1時間20分後、リー・ハーヴェイ・オズワルド容疑者逮捕。しかし2日後、オズワルドもまたジャック・ルビーに殺害される。オズワルドの死が事件の解明を困難にした。単独犯行説。複数犯説。囁かれる黒幕の存在。かくしてケネディ暗殺は戦後アメリカ最大のミステリーになった。

 2008年。ニューヨーク・タイムズ記者、フィリップ・シノンに一本の電話がかかってきた。電話の主は「The Commission(委員会)」で働いていた者だ、と名乗った。ケネディ暗殺の真相をつきとめようとした超党派の委員会「ウォーレン委員会」の元スタッフだった。

 同委員会にはダレス元CIA長官、将来の大統領フォードなどが名を連ねたが、実際に調査を担当したのは全米から集められた若く優秀な弁護士、検事たちだった。彼らがケネディ死後50年を期して集まり、シノンに何があったのかを書いてほしいと提案してきたのだ――。FBIとCIAは何を隠したのか? 50年を経て初めて明かされる、ケネディ暗殺調査の真相。

1964(昭和39)年 東京オリンピック開催

『東京五輪1964』
(佐藤次郎 文春新書刊行 2013年)

『東京五輪1964』

 日本が敗戦から立ち直ったことを世界に示し、また、高度経済成長のジャンピングボードとなった東京オリンピック。その社会的影響についてはさまざまな角度から議論されてきたが、では、参加した選手やスタッフ、観客にとっては、どんな大会だったのか?

 東京新聞で長年、五輪を取材してきた著者が、本書で15日間の会期を15の視点で再現。「坂井義則 聖火を灯した最終ランナー」「佐々木吉蔵 ボブ・ヘイズの信頼を勝ち取った名スターター」「田中聰子 メダルの重圧を背負った渾身の泳ぎ」「寺澤徹 アベベ、円谷に敗れた42.195キロ」「杉山茂と西田善夫 国際テレビ中継を支えたNHKのスタッフたち」など、さまざまな立場にいた人たちのさまざまな思いが、五輪を支えていたことを教えてくれる。東京五輪2020を考えるにあたって必読の一冊。



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