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日米大搾取のパラレル

日米大搾取のパラレル

文:湯浅 誠 (「反貧困ネットワーク」事務局長)

『大搾取!』 (スティーブン・グリーンハウス 著/湯浅誠 解説/曽田和子 訳)


ジャンル : #ノンフィクション

   本書が単なる太平洋の彼岸(ひがん)の話でないことは、最初に章立てを一瞥(いちべつ)するだけで容易に理解できる。「酷使の現実」「不満には恐怖で」「働く意欲が失せていく」「戻ってきた十九世紀」「消えた会社との約束」……。本書の内容は、ほぼすべてそのまま日本の話でもあり、本文中に出てくる固有名と統計データの数字を入れ替えれば、同じ構成と内容で日本版『大搾取!』を執筆することも可能である。

 

  一九七〇年代までの「ハッピーワーカー・モデル」から八一年のレーガン政権による組合(航空管制官組合PATCO)潰し以降のブルーワーカーの「失意の一〇年」、九〇年の「チェーンソー」ことダンラップと「ニュートロン」ことウェルチの登場によるホワイトカラーの受難(以上五章)、二〇〇〇年代の「ホワイトカラー、ブルーカラー、中流、下流を問わ」ない悲惨な労働実態(事例は全章にちりばめられている)、若年層と高齢者の生活苦(十一章、十二章)はそのまま、八〇年代までの「日本型雇用」と中曽根政権による国労解体、一九九九年のカルロス・ゴーン日産社長の登場とこの間の悲惨な労働実態、若年層・高齢者の生活苦という日本の現実と重なっていく。さらに日本の金融市場に世界から投資資金を集めるために、二〇〇〇年以降進められた「金融ビッグバン」。派遣業種の全面的な拡大が行われた一九九九年の「労働者派遣法改正」。そして労働者の代表を交えず経営者と一部の学者のみを委員として話し合われ、「労働市場の柔軟化」を目指す規制改革会議……。その結果、起きているのは、株主という名の投機マネーによる企業の乗っ取りであり、グローバル経済競争という大義名分の下での恵まれた労働者と恵まれない労働者、労働者としての市民と消費者としての市民との対立、市民社会の幾層にも及ぶ分断だった。

   ひとり労働者だけではない。六章(「弱者がさらに弱者を絞る」)では、高い成果を求めるビジネス界の環境変化が、経営者・管理職をも巻き込んでいることが示される。「経営トップの労働者にかける圧力がどんどん強まっているのは、彼らにかけられる圧力が強くなっているから」なのだ。そして「彼ら(結果を出さない人間)をどんどんお払い箱にしないとこちらの評価が危うくなる」という中で、「(前略)改革や人員削減をともなう人事のうれしくも楽しくもない仕事」が管理職に押し付けられ、コスト管理をするコンピュータの指示に基づいた「強い圧力に満ちた労働環境」が作り上げられていく。下へ下へと向かう圧力は、最終的に「低賃金、福利厚生なし、保障なし、尊厳なしの永久に終わらない踏み車」としての臨時雇用労働者を生み出し、さらには会社の医療保険を始めとした諸経費を不要にする独立契約者を生み出し、挙句の果てに「まさに歩く(だけでなく、しゃべりもする)矛盾語」である「常用臨時雇用の派遣労働者」を生み出した。――私たち日本人もいまや三人に一人が非正規雇用労働者であり、「常用臨時雇用の派遣労働者」が「歩く矛盾語」だと容易に意識できないのではないか。

大搾取!
スティーブン・グリーンハウス・著 , 湯浅 誠・解説 , 曽田 和子・訳

定価:2200円(税込) 発売日:2009年06月26日

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