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『太陽の坐る場所』映画化記念対談 辻村深月×藤巻亮太(レミオロメン)

『太陽の坐る場所』映画化記念対談 辻村深月×藤巻亮太(レミオロメン)

「本の話」編集部

『太陽の坐る場所』 (辻村深月 著)


ジャンル : #小説

2人の秘めた高校生活

辻村 以前お会いした時に藤巻さんが、私の学生時代のことを「僕と違ってちゃんとしてきてそうだよね」とおっしゃって(笑)。それってその通りなんです。ちゃんとしてしまう自分が嫌で、もがいていたときに、小説を書き始めたんです。藤巻さんは私から見たら、きっとまぶしい高校生だったんでしょうね(笑)。

藤巻 いえいえ(笑)。でも、今、話をきいていて、面白いなと思ったのは、僕と似ているところと逆だなと思うところが両方あって、僕は何事も中途半端にしかできなくて、それが高校時代までコンプレックスだったんです。そういう自分が受け入れられなくて苦しんだ時期があって、そのコンプレックスが、自分を音楽へ向かわせたんだろうなと思います。音楽は、なにかを肯定する力がものすごく強いので、そんな自分でもいいじゃん、と、まず自分を肯定できた。それが大きかったですね。そこで、音楽のパワー、魅力を知ったんだと思います。だから、高校までは悶々とした生活を送っていましたね(笑)。

辻村 それじゃ、お互い同じような生活をかなり近距離で送っていたんですね(笑)。

 私は、この小説を書くまでは、10代の人たちを中心にすえた小説を書くことが多かったのですが、この小説では高校を卒業して10年経って28歳になった人物たちの回想として10代を描いているんです。執筆当時のことを思い出すと、そのときは「怒り」の感情で書いていて、文庫化するときに読み返したら、「なぜ、私はこんなに怒っているんだろう」と自分の怒りに引いたくらいでした(笑)。

藤巻 かなり怒ってますよね(笑)。

辻村 そうなんです。今になると、こんなに怒らなくてもいいんじゃないかと思ったり、響子にも、同窓会に行かなくてもいいよと思ったりするんですが、きっと、そこに共感してくれる人も多くいたんだろうなと思い、文庫でもそのまま変えずに出しました。

 激しい怒りというのは、人を疲れさせたりしますが、結果的に、人を癒していくものでもあるというところが、藤巻さんの音楽と通じるところがあったのかなと思います。

藤巻 そこに関連しているのかもしれませんが、この小説には「痛み」というものをすごく感じて。それぞれが痛みを抱えていて、そういうものが自分の内側に向いてしまうと、もっと倦んでしまうこともあるけれど、例えば小説を書くことによって、外向きになったときに、それが癒しになっていくのかなと、思いました。表現すること自体が癒しになるのではないでしょうか。

辻村 何に対して怒っていたのかということを、今回の映画化に際して、質問されたのですが、10代の時は、みんな痛みに敏感だったのに、大人になると、とりあえず仲良くやろうよ、ということが増えてきて、そういうことに怒っていたのかなと、思います。だからこそ、高間響子は教室にとらわれ続けているのだろうし、あの時にしたことを忘れてはいけないと強く思っていて、鈍感になっていくことが許せなかったのだと思うんです。

藤巻 小説では、それぞれの人物が、なくしてしまったり、忘れてしまったりしたパズルのピースをはめていって、自分の人生を捉え直そうとする姿勢が感じられました。最後まで読んで、痛い感情が渦巻いているところもあるんですが、そういうことも含めて、10年経って今の自分がいるという、点と点が線になっていくような、そういう力強さが小説に感じられて、僕はとても救われたんです。

辻村 ありがとうございます。

藤巻 今思うと、高校時代にあった出来事というのは、全部点と点が線でつながって、それが面になっていって、それがまた立体になって、今の自分がいるという感覚があるじゃないですか。それをいいところだけでなく、痛い側面からも見つめられる精神的なタフネスみたいなものを感じました。逆に言うと、そんなことを書ける辻村さんというのは、いったいどういう高校生活を送ったのだろうと思いました(笑)。

辻村 『太陽の坐る場所』などを読んだ方たちから言葉を選びつつも「もっと追いつめられている感じの方かと思いました」みたいなことを言われることがありました(笑)。

 山梨の私立の高校だったので、県内のいろいろな町から来ている子たちが多くて、つまり、それは前の学校を一度捨ててきたということなんですね。だから高校デビューし放題です(笑)。前の自分のことを知らないところから作っていく人間関係だったので、そのあたり、直接的なモデルがいるわけではないのですが、この小説の中の、それぞれ抱えている痛さの違いというような群像劇の表現に表れているのかなと。

 矢崎監督が撮ってくださったシーンで、クラスの記念写真を撮る場面があるのですが、女王だった響子が真ん中に位置しているにもかかわらず、まわりの人たちが動いていて、彼女だけが浮いてみえてしまう。中央にいることが必ずしも充実ではないということが、象徴的に表現されているんです。映画は、そういう空気をとてもうまく表現してくださっていました。

藤巻 そうですね。

辻村 実は、書いている時は、見えていないけれど、全部書き終えてから、自分はここが書きたかったのだとわかったり、あるいは、文庫の解説を読んで、それを発見して、最初から知っていたら、もっと楽に書けたのにと思ったりするんです(笑)。でも、たぶん最初から答えがないから、それを探して寄り道もするわけで、そういうところに共感する人もたくさんいてくださる。映画を観ていて、わかることもたくさんありました。

 それと、今回、驚いたのが、28歳を演じている役者さんと高校時代の役者さんの雰囲気がとても似ているんですね。あまりに皆さん完璧なので、冴えない男役の島津を、かっこいい三浦貴大さんがどう演じられるのかなと思っていたのですが、それは杞憂ですばらしかったです。顔だちが整っているのに、こんな風に貧乏くじをひかされる男の子いるなあと(笑)。島津の高校時代も、ちゃんと無理なく三浦さんにつながっているリアリティがありました。

藤巻 高校時代の役者さんと大人になってからの役者さんは、声も似ていましたね。

辻村 さすが藤巻さん。言われてみるとそうです。パンフレットにもありましたが、矢崎監督が高校生役のオーディションでこの子たちに「出会った」という言い方をしていて、きっと全員に対してそんな感覚があったのだろうなという気がしました。

【次ページ】抜けない棘と抜かない棘

太陽の坐る場所
辻村深月・著

定価:本体600円+税 発売日:2011年06月10日

詳しい内容はこちら

つんどく! vol.4
「別册文藝春秋」編集部 編

発売日:2014年08月29日

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