2015.12.15 インタビュー・対談

一瞬でヒトの命を奪う、1億人に1人の存在とは?

聞き手: 「本の話」編集部

『魔女の封印』 (大沢在昌 著)

一瞬でヒトの命を奪う、1億人に1人の存在とは?

『魔女』シリーズ7年ぶりの第3作がついに単行本化。記念すべき百冊目の著書に込めた思いを語る。

『魔女の封印』 (大沢在昌 著)

――『魔女』シリーズの最新作、『魔女の封印』が刊行されました。裏社会のコンサルタントで、男の能力を一瞬で見抜くことができる主人公の水原は、これまで殺人犯やマフィアなどと戦ってきました。今回は、頂点捕食者という、ちょっと意外な敵が相手ですね。

 昨年、この作品の連載を『週刊文春』で始めることになったものの、誰と対峙させるか、実は数ヵ月、悩みました。前作の『魔女の盟約』で、民族マフィアという大きな相手との戦いを描いてしまったので、もうマフィアやヤクザのレベルでは読者も物足りないだろう。もっとゴツいのとなると、どんなのがいるかな、と考えていた時期に、たまたま六本木で、古い修道院と古美術店が並んでいるのを見つけたんです。不思議な取り合わせだな、古美術品が修道院にひそむ魔を封印しているのかな、なんて想像をめぐらしているうちに、ふと吸血鬼が頭に浮かんだ。そうか、水原の敵が人間じゃないというのも面白いかな、と閃きました。

 ただ、吸血鬼だと日本人はあまり怖がらないし、十字架を嫌うとか、日が昇ったら動けなくなるなど制約が多くて、描写が限られてしまう。そこで、血の代わりに人間のエネルギーを吸い上げる、頂点捕食者(頂捕)にたどり着いたのです。

――頂点捕食者とは本来、食物連鎖の頂点に位置する種のこと。この作品では、人間のさらに上位に位置する1億人に1人の存在であり、一瞬でヒトの精気を奪って腑抜けにし、殺すこともある。中国要人の暗殺事件に関与し、日本の安全保障をも脅かします。

『魔女』シリーズを読まれた方はご存じですが、水原は冷徹で、自分の周辺に害が及ばない限り、『頂捕が誰を襲おうが、アタシには関係ないわよ』と知らん顔しかねない女性です。だけど、日中関係や、国家の危機にかかわるから、と懇願されると、『ホントは世のため人のためなんてどうでもいいのよ』なんて憎まれ口を叩きながら、プロとして仕事を全うする。僕はそんな水原の性格が大好きなんです。彼女を書くのは、実に楽しい作業でした。

――元警官で性転換した私立探偵・星川、元警視庁公安部の刑事・湯浅など、『魔女』シリーズでお馴染みの面々が今回も大活躍し、やたら剽軽な大阪の探偵、アニメ声の女性研究者らが加わる。なにより、6人の頂捕は非常に迫力があります。

 敵が人間じゃないとなると荒唐無稽に思われがちですから、肝心なのは、いかにリアリティを持たせるか。女の頂捕を登場させたのも、人間対怪物といった構図ではなく、男と女の愛憎というリアルな物語になるではないか、と考えたためです。そのアイデアが浮かんだのは、連載が始まってからでしたけど(笑)。

 人間と頂捕は共存できない水と油の関係にある。少し話を広げれば、この『共存できない』ということが、いま大きな問題になっていると、感じます。

 たとえば、シリア問題。ISと有志連合、さらには、シリア包囲網を組むべきアメリカとロシアも相いれない。ヨーロッパの難民の問題もあります。『世界は1つ』などといくら謳っても、共存できないものはできない。では、理解しあえない者同士が、どうすればひとつの世界で生きていけるのか。それも、本書の1つのテーマだと思っています。

――気の早い話ですが、本書を読んだあとで、水原には次にどんな敵が立ちはだかるのか、と胸躍らせるファンも多いと思います。

 うーん……、これ以上の相手は思いつかないかもしれないな(笑)。

魔女の封印
大沢在昌・著

定価:本体1,850円+税 発売日:2015年12月12日

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