本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
映画批評と小説の間にあるもの

映画批評と小説の間にあるもの

「本の話」編集部

『映画覚書vol.1』 (阿部和重 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #随筆・エッセイ

――阿部さんは否定的な立場をとっていますね。

阿部 映像の詐術の一つとしてそういう手法が蔓延してしまったと捉えていますね。それは映画に限らずテレビでも言えることです。『電波少年』という番組は、疑似ドキュメンタリーだったと思うんですよ。旅をしていく過程をカメラが常に追って、一つのドキュメンタリーではあるんですが、完全にやらせがないかというと、もちろんそうではない。

 手持ちカメラで動き回りながら対象を追って、映像を見せれば、安っぽい話でもリアルに見えるだろうということで、九〇年代以降の疑似ドキュメンタリーはそのスタイルをとってしまったというふうに僕は見ているんです。

――『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』なんかはそれで非常に話題になりましたね。

阿部 もうまさに疑似ドキュメンタリーです。『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』は、よく言われている通り、完全に『食人族』という七〇年代後半の作品の反復であり、再現に過ぎません。インターネットを介して口コミで広がったという点に関しては新しい要素といえるかもしれませんが。

――技術重視と物語性の退廃という九〇年代以降の傾向の中で、スピルバーグ監督に関しては「最も輝かしい」仕事をしていると評価されていますね。

阿部 スピルバーグの場合は、映像表現と物語性の面のバランスが非常によくとれているんですね。というのも、彼はもともと新技術をいろいろな形で逸早(いちはや)く取り入れながら撮ってきた人だったから、九〇年代以降のデジタル技術にも安易に飛びつかなかったんです。やはり物語性の工夫は確保しなければならないだろうと。さらに、彼がすごいのは、一つの作品によって一つの物語を語るだけでなく、全く別の作品でも、それを重なり合わせることによって一つの新しい物語が見えるというような仕組みを考え出して実践していることです。

――具体的な作品を挙げると?

阿部 最も最近の作品でいえば、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』と『マイノリティ・リポート』です。この二作品は実は同年(二〇〇二年)に発表されているんですよ。今となっては同年に二作を発表すること自体が珍しいことです。前者は六〇年代を舞台にした実話の映画化、後者は近未来SFサスペンスで、見た目は全然違う内容の作品です。しかし物語に着目してみると、どちらも父と子という親子間のドラマを撮っているんですね。しかも『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』は父を失った子が主人公であるのに対し、『マイノリティ・リポート』は子を失った父が主人公になっています。そして、話が進展していく中で疑似的な父という存在が現れ、その関係性が描かれて終わるという、ちょうどコインの表裏のような仕掛けになっているんです。

――目からうろこですね。

阿部 さらにこの二作だけでなく、他の作品も同様につながっているんです。例えば二〇〇一年に発表された『 A. I.』と『ジュラシック・パーク3』(製作総指揮)も親子間のドラマを描いたものであり、先ほどと同じ構造になっている(編集部注・詳しくは『映画覚書 vol.1』の「映画覚書(10)」の項参照)。こんなことをやっている人は他にいないし、逆にスピルバーグだからこそできるんだと思います。

【次ページ】

映画覚書vol.1
阿部和重・著

定価:本体2,381円+税 発売日:2004年05月26日

詳しい内容はこちら

プレゼント
  • 『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/4/19~2024/4/26
    賞品 新書『グローバルサウスの逆襲』池上彰・佐藤優 著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る