2016.01.03 書評

巨石遺跡に秘められた太古の記憶とは!? 20年ぶりに復活した幻の傑作群

文: 澤島 優子 (フリー編集・ライター)

『石の記憶』 (高橋克彦 著)

『石の記憶』 (高橋克彦 著)

 高橋先生の新しいオリジナル文庫が出版されるというのは、長年のファンでなくても心躍る「事件」である。それと同時に、まだ文庫に収録されていない作品があったのか、と驚いた読者も多いことだろう。初出一覧を眺めてみると、雑誌に掲載されただけで一度も書籍に収録されたことのない作品がいくつもあることが不思議である。

 とりわけ、本書のほぼ半分を占める「石の記憶」という作品の異質さはどうしたことだろう。読み切りの短編としては長い原稿用紙二〇〇枚ほどもある分量もさることながら、冒頭に置かれた「旅立ち」というプロローグ、「秋田県鹿角市十和田大湯字野中堂」という、具体的すぎる章タイトルにも違和感を覚える。もちろん、いったん読み始めてしまえば、そんな違和感などは吹き飛んで一気に作品世界に引き込まれてしまうのだし、高橋作品に余計な解説など必要ないのだが、この「石の記憶」については、少し説明が必要かもしれない。

 

 今から二〇年前の一九九五年春、高橋さんは新たな物語のシリーズを立ち上げようとしていた。当時、連載を一〇本も抱える超多忙な日々を過ごしていらしたにもかかわらず、である。連載媒体は「野性時代」という小説雑誌で、担当はまだ二〇代だった駆け出し編集者の私である。新シリーズには「新諸国物語」という仮タイトルがつけられ、すでにいくつか取材旅行にも出かけていた。

 連載が始まる前に行った「特別インタビュー」(「野性時代」一九九五年四月号掲載)で先生は、このシリーズは、中学時代に東北地方に残っている民話や伝承に興味を持ったことが発想の始まりだったと述べられている。そして、各地方に残っている民話や伝説、中央史には残っていない地方独特の物語を探し出して、新たな視点で「遠野物語」のようなものを書いてみたい、それもできればバラバラな小説ではなく、日本全国をシリーズとして扱ってみたいと思うようになったのだ、と。

 基本的には一県にひとつ、不思議な話、県を代表するような話を発掘して小説にしたいということです。さらにただ四七都道府県を書くというのではなく、同時に「日本史」をやってみたいんです。ある県は縄文時代、ある県では江戸時代というように時代を変え、最後に時間軸で並べたときになにか新しい歴史の線が見えてくるのではないか。また同じ感性で通したいので、ひとりの主人公をたてて、縄文あるいはそれ以前の時代から未来までも生き続けるような存在に設定したいと思っています。

 一県にひとつの物語。これはすごい! 高校野球で地元の高校が勝ち進むことを嫌がる人はいないだろう。どのような屈託があるにせよ、人は生まれた土地を愛さずにはいられないものだ。四七都道府県すべての物語が揃っていれば、読者は必ず興味を持ってくれるにちがいない。

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石の記憶
高橋克彦・著

定価:本体710円+税 発売日:2015年12月04日

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