レビュー

多重文体+B級事件。折原一の作風を決定づけた記念碑的傑作が復活!

『異人たちの館』 (折原一 著)

文: 小池 啓介 (書評ライター)
『異人たちの館』 (折原一 著)

 様々な人間の視点が連鎖しながら富士山麓での白骨死体発見の報につながっていく、緊迫感が支配する本書のプロローグ。そこには、こんな一文がある。

「残された最後の力をふりしぼって洞穴から這い出ると、木の間越しに月が見えた。冴えざえとした光が、地面にパッチワークのような模様を描いていた。」

 パッチワークとは手芸の技法のひとつで、色、柄、形、素材の違った布地を縫い合わせて一個の模様をつくり上げることをいう。組み合わせの腕次第で思いも寄らない魅力的な図柄が浮かび上がるところが、おもしろさになっているのだろう。

 今、あなたが手にしている『異人たちの館』とは、そんなパッチワークが形作るような――意外性に満ち溢れた小説だ。

 

 本書『異人たちの館』は、一九九三年一月に新潮社より書下ろし単行本として刊行された。作者の折原一にとって十四冊目の著作となる長編ミステリー小説である。

 折原は、一九八八年、密室ミステリーで統一された短編集『五つの棺』(現・創元推理文庫。増補改訂され『七つの棺』と改題)でデビューしている。作家活動を開始してからおよそ五年が経ち、著作も十冊を超えた時期であり――また、当時優れた国産ミステリーを次々と上梓していた《新潮ミステリー倶楽部》叢書からのオファーということもあったのかもしれない――心に期するものがあったのだろう。『異人たちの館』の仕上がりは、まさに渾身のという表現がふさわしい。

 実際に評価も高く、翌年の第四十七回日本推理作家協会賞・長編部門の候補に挙げられ、年末のブックランキングにおいては、週刊文春ミステリーベスト一〇で四位、一九九四年版『このミステリーがすごい!』で九位を獲得した。また、一九九六年二月に新潮社から文庫版として刊行された後、二〇〇二年七月に講談社より改訂を施して再文庫化されているため、今回の文春文庫版が三度目の文庫化ということになる。流行り廃りの激しい小説の世界で、二〇年以上前の作品がまたもや文庫本として再出版されるのだから、これも作品の持つ力が並みではないことの裏付けといっていい。

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異人たちの館
折原一・著

定価:本体1,200円+税 発売日:2016年11月10日

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