2011.11.16 書評

『日本の論点』20年 

文: 『日本の論点』編集部

『日本の論点2012』 (文藝春秋 編)

 年刊論争誌『日本の論点』が創刊されたのは1992年秋、この2012年版で、ちょうど20冊目の刊行になる。

 創刊当時は、米ソの冷戦が終わったばかりで、日本は大きな価値観の変動に直面していた。国内ではバブル経済が崩壊するいっぽう、自民党の一党支配を許した55年体制が揺らぎはじめたときだ。非自民細川政権が誕生したのは、創刊の翌年である。

 議論を「右寄り」あるいは「左寄り」に切り分ければカタがついた時代はすでに終わったと識者はいうものの、対立軸にはやはりイデオロギーが色濃く残っていた。それでも本書が、毎年刊行を続けてこられたのは、「日本および日本人に大きな変化が起きていることはわかっているが、そのわけを筋道立てて説明してほしい」という読者の要望に応える書物が、ほかにあまりなかったからであろう。

 あれから20年、赤ん坊が成人するほどに時間が経過した。読者の中心層も次々と代替わりした(もちろん本書を創刊以来、本棚に詰めてくださる方も多いが)。

 若い読者は、89年の東西ベルリンの壁崩壊という大変化をリアルタイムでは見ていない。中年以上の世代にとっては、あの事件は、いまリビアで起きているような独裁対民主化という構図とは違って、「右」=自由主義と「左」=社会主義の境目がなくなるぞ、という意味だった。

 今日の変化の本質を知るには、当時の時代背景や論争の経緯を知っておくにしくはない。なぜなら主張には必ず理由があるからだ。たとえば、尖閣沖漁船衝突事件は、沈滞していた憲法改正論議を再浮上させるきっかけとなった。というのも、憲法前文を含む九条論争に戻らなければ、領海侵犯問題についての解は出ないからである。

 各都道府県で施行された暴排条例には、「市民を前面に出しすぎている」という批判があるが、92年に暴力団対策法が施行されたいきさつと、彼らがどのようにしてこの法律の抜け穴をくぐってきたかを知ると、その論拠がわかる。

 20年目の本書は、長年にわたって結論の出ない本質的な論争をできるだけとり上げた。そして、論争の発端や背景について、できるだけ解説に努めた。政策がほとんど変わらない民主・自民への批判は、「選挙制度改革」論争を、強いリーダーの不在は、「首相公選制」論争を、本書に再登場させることになった。

 変化は現実である。現実の上に理想を重ねて区別なしに論じた世代が退場を始め、変化を次のステップとしてとらえる世代が登場してきた。例年にくらべ年表が多くなったのも、この20年の変化をいま一度、俯瞰していただこうと考えたからだ。

 巻末には有史以来の「日本災害年表」をつけた。地震・噴火から台風まで、われわれが、世界でもまれな災害列島に住んでいることを再確認するためである。

 東日本大震災が与えた衝撃は、日本人の心象風景を変え、価値観さえ揺るがした。しかし、まだ再浮上の芽はある。特集「10年後の日本」で、それを探った。ぜひ日本復活の可能性を見つけていただきたい。

 本書の筆者に名を連ねている気鋭の論客の中には、「学生時代に読者だった」という方が何人かいる。よりよき日本に向けて、これから新しい論点を提起していただければ嬉しい限りである。

日本の論点2012
文藝春秋・編

定価:2980円(税込) 発売日:2011年11月10日

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