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苦手な旅を書いた理由

苦手な旅を書いた理由

「本の話」編集部

『僕らが旅にでる理由』 (唯野未歩子 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

──衿子が「再生」するために。

唯野  そうですね。今回の作品は大島弓子さんの漫画に通底しているところがあるかもしれません。大島さんの作品にも自分の性を受け止めきれない女の子が出てきて、その女の子が突飛な世界を通過したあと、「このままの私でいいんだ」と気づく。性という混沌を抱えた女の子が、そこから逃げるべきなのか、逃げるならどうやって逃げればいいのかということは、これからも書いてゆきたいと思います。

作家業・女優業・監督業

──今回の作品は初めての連載ということでしたが、執筆のご苦労はありましたか。

唯野  先ほど少し言いましたけれど、やはりこの物語は寓話なので、リアルではない表現をどこまでしていいのか、その加減には苦労しました。衿子が旅をした土地には実際に足を運びましたが、どこまで物語の基本ラインを崩さずにその場所のことを書くか……。悩んで書いた表現に担当の編集の方から「これで行きましょう!」とOKを頂くのはとても嬉しかったですね。初めての連載ということ、そして苦手な旅を作品のモチーフにすることに挑戦できたこと自体、とても刺激的なことでした。

──よく訊(き)かれることとは思うのですが、唯野さんにとって女優業、監督業、脚本の執筆などのお仕事と、小説を執筆することの違いは何でしょうか。

唯野  実はそんなに大きな違いは感じていません。違うのは家でできる仕事かどうか(笑)。映画の仕事はスタッフやキャストと話し合ったり、提案しあったり、励まされたりする「人と作る」要素が色濃いですが、基本的に小説を書くことも同じだと思います。私は書きたいテーマがいくつも自分の中にストックされているわけではないので、編集者の方に限らず、いろいろな人と出会うなかから物語が生まれてきます。

──なるほど。確かに物語の中の「出発点(赤羽)」と「終着点(和歌山)」は唯野さんが実際に出会った人との関わりの中から決められていますね。

唯野  はい。それと以前「中学生日記」の脚本を書いたことがあるのですが、ドラマに出ている中学生たちと交流する機会があって、そのときにいろいろ話したことが、直接ではありませんが、今回の物語の中に反映されていると思います。

──本当に「人との出会い」が重要なのですね。

唯野  そうですね。それには私が大々的な「物語的物語」にあまり興味がないことも関係しているのかもしれません。小説のために限らず、人との新しい出会いにはこれからも心して臨みたいと思っています。

僕らが旅にでる理由
唯野 未歩子・著

定価:1600円(税込) 発売日:2009年08月07日

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