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武者小路実篤が“野菜の色紙”に込めた思い

武者小路実篤が“野菜の色紙”に込めた思い

文・写真:「文藝春秋」写真資料部

 淡い色調の野菜の絵に「仲良きことは美しき哉」。戦後のある時期、日本中の家庭に一枚ずつあったのではないか、と言われるほどだった。ときに「空想的」「貴族的」と批判されながらも、理想主義を追い続けた作家の手になる色紙だ。

 明治十八年(一八八五年)、公卿の家系である武者小路実世子爵の第八子として東京・麹町に生まれる。学習院時代から、同級生の志賀直哉らと文学活動をはじめ、東大中退後の明治四十三年「白樺」を創刊。「白樺派」の思想的支柱として、「友情」「愛と死」などの名作を発表していく。

 階級闘争のないユートピアの実現を目指し、大正七年(一九一八年)には共有財産をもとに協力して農業を行う「新しい村」を建設、実篤自身もこの村に住んだ。自身は僅か六年間で離村しているが、その後も村外から援助活動を続けた。

 写真は昭和二十七年(一九五二年)、友人の徳川夢声(右)の前で絵筆を取る実篤。色紙に必ず「野菜」が描かれているのは、共に収穫を喜ぶ「新しき村」の理想を、生涯持ち続けていた証かも知れない。「みんな仲良く」は、苦悩や挫折を経たうえでの言葉だからこそ、人々の心に届くのだろう。

 昭和二十一年には貴族院議員に就任。昭和二十三年に雑誌「心」を創刊、昭和五十一年に九十歳で病没するまで編集に関った。

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