2015.09.28 文春写真館

加藤武は飄々としたキャラクターが板についていた

文・写真: 「文藝春秋」写真資料部

加藤武は飄々としたキャラクターが板についていた

「よしっ、分かった!」

 加藤武といえばこれ。「犬神家の一族」「八つ墓村」など金田一耕助シリーズで、早とちりの警部がお約束で連発するセリフだ。陰惨なトーンの画面の中で、唯一笑えてホッとできる、「休憩所」のような役どころだった。

 昭和四年(一九二九年)、東京の築地生まれ。実家は魚河岸の仲卸、家族中で芝居好き、小学校の頃から歌舞伎に夢中という生い立ちで、なるべくして役者になる。

 麻布中学では小沢昭一やフランキー堺、仲谷昇、なだいなだと同級生で、早稲田大学の演劇研究会では今村昌平と知り合ったというジェネレーション。学徒動員で働いたり、東京大空襲で炎の中を逃げまどい、歌舞伎座が燃え落ちるのを眼前にしたりという体験もしたが、東京銀座の街に育った楽天性、飄逸ぶりは終生の持ち味だった。

 役者としても、文学座を基盤にしたインテリ王道の一流で、だからこそ気取ったり格式ばったりすることを美学とせず、飄々としたキャラクターが板についていたのだろう。

 スクリーンに出はじめた当時、黒澤明の「悪い奴ほどよく眠る」でも、復讐にとらわれ自分を見失う主人公に、「こだわるな」「楽しめ」と言う役を演じている。息詰まる展開の中で、彼だけが磊落な笑顔を見せていた。

 その他「白い巨塔」「仁義なき戦い」「釣りバカ日誌」「日本沈没」、テレビなら歴代の大河ドラマから「鬼平犯科帳」まで幅広く活躍。戦後の日本人なら誰しもあの顔を思い出せるだろう。

 写真は平成二十七年(二〇一五年)、「オール讀物」五月号で、小沢昭一追悼の鼎談をした折のもの。中学校以来親しくつきあっていた小沢を語るのに、さすがに寂しそうな表情を隠せないでいる。

 小沢昭一、永六輔、矢野誠一らと共に「東京やなぎ句会」の同人でもあり、「うすものの手首に透ける傷の痕」「息殺し鼠花火と睨めっこ」など、ドラマのような、とぼけたような、役者らしい句を吟じている。

 平成二十七年七月三十一日、八十六歳にしてスポーツジムのサウナで倒れて亡くなったのもまた、芝居のような最期であった。

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