2011.10.19 書評

上手に生きて死んでいくコツ

文: 帯津 良一 (帯津三敬病院名誉院長)

『〈達者な死に方〉練習帖――賢人たちの養生法に学ぶ』 (帯津良一 著)

 健康のために禁煙するのはいいことです。週に一日は休肝日を作るのもいいでしょう。野菜中心の食事も大事です。体にいいサプリメントもたくさんあります。しかし、私が思うに、これらは消極的な養生です。養生を語るには、もっと生命の本質に迫る必要があります。生命を正しく養うことこそ、養生だからです。

 そこで、私は積極的な養生をすすめています。積極的な養生というのは、生命を躍動させることです。私は、いつも仕事が終わると病院の食堂でビールを飲みます。この瞬間、今日も一日がんばったと、生命が躍動します。ですから、一日たりとも、お酒を飲まない日はありません。私にとって、お酒は養生なのです。ですから、休肝日は私には必要ありません。酒が体にいいとか悪いとか、タバコは健康に害があるとか、そういう議論よりも、自分の生命が躍動するかどうか、そこに焦点を絞れば、もっと本来の養生に近づけるのではないでしょうか。

 私は、江戸時代にこそ、本物の養生が語られていたのではないかと思っています。戦乱のない太平の世の中で、人はのびのびと生きていました。自分の内面を見つめ、人の生き方にも敬意を表する余裕があったでしょう。明治時代以降、西洋医学が主流になってきて、いかに病気を治すかが医療のテーマとなり、養生は軽視されるようになります。そういう意味で江戸時代こそ養生の頂点だったのかもしれないと思います。

 養生というと、貝原益軒の名前が上がります。彼も江戸時代の人です。私は、あるときに『養生訓』を読み直して、すばらしいことが書いてあるのにびっくりしました。天を畏れることこそ養生なんだというようなことを、益軒は言っているのです。私は、彼が積極的な養生を説いていた人だと見直しました。私は、貝原益軒のほかに、臨済宗の名僧だった白隠禅師、さらには『言志四録』を書いた佐藤一斎を養生の三巨人と呼んでいます。

 白隠禅師は、生きながらにして虚空と一体になることの大切さを説いています。虚空というのは、私たちの生命の故郷です。私たちは、虚空からやって来て、虚空へ帰って行く旅人です。死んだら虚空へ帰るわけですが、もし生きながらにして虚空を感じることができれば、それこそ悟りの境地と言ってもいいのではないでしょうか。それを求めるのが養生だと、白隠禅師は言っているのです。

 佐藤一斎は、養生の秘訣は「敬」の一字だと言っています。自然を敬い、人を敬い、自分を敬う。ここにこそ、養生の本質があるのです。ほかにも、安藤昌益や本居宣長、宮本武蔵、沢庵和尚なども取り上げました。

 3・11の震災と原発事故で、多くの人の心が閉塞感に包まれています。自分の生きる意味がわからないとか、将来に夢がもてないという人も増えてきています。こういう時代だからこそ、本当の意味での養生を多くの人に知っていただきたいのです。ぜひ、江戸時代の養生の達人たちから、上手に生きて死んでいくコツを学ぶことで、少しでも有意義な人生を歩んでいただければと願っています。

〈達者な死に方〉練習帖
帯津良一・著

定価:756円(税込) 発売日:2011年10月20日

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