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それとない『ご縁』の有難さ

それとない『ご縁』の有難さ

「本の話」編集部

『多生の縁――玄侑宗久対談集』 (玄侑宗久 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #随筆・エッセイ

みんな誰かに認めてほしい

――玄侑さんは小説以外にも、仏教を扱ったご本で、さまざまな悩みや迷いをかかえている読者の方々に強い影響を与えていらっしゃると思います。

玄侑 人は他人に何かを言われても、すぐに変われるものではないんです。その人達が望んでいることは「そのままでいいんじゃないの?」って言ってもらうことなんです。だから「そのままでいいんじゃないの」って認めてもらえる価値観というものを、非常に歓迎するのではないでしょうか。岡倉天心も『茶の本』のなかで言っているんですが、私は禅というものは極めて個人的なものだと思うんです。正しさ、というものを認めない老荘思想の上に乗り、あれもあり、これもあり――誰にでも通用する真理というのはないんだ、と心の底から思っています。よっぽどのことでない限りそれぞれの生き方があるでしょうし、八百万的に認めてしまうので、そういう考え方が読者の方々には喜ばれているんでしょう。

 つまり、私の今までの人生これでよかったんだ、って周りに言ってほしい人が大勢いるんですね。「頑張っているね」「よくやっているね」って、誰にも言われないと自分で言いたくなるでしょう。それは不幸のはじまりで、みんな誰かに認めてほしいと心の底では思っていることは、よく感じます。まあ、坐禅なしで伝授、というのもいいんでしょうね。坐禅つきではどうでしょう?(笑)でも、今まで私の読者の中心ではなかった三十代の男性がメールをくれたり、感想を手紙でくれたりもしています。

――ご自身の中では、かつて僧侶になる以前にさまざまな職業に就かれ、そこでは迷いもあったと伺いました。そうした状態から「いまの自分でいいんだ」と思えるようになったきっかけは、あったのでしょうか。

玄侑 やっぱり禅との出会いであり、修行道場での体験なんだと思います。ただ、もっと単純に考えると、たとえば外を見ていても、メジロがいて、スズメがいて、ヒヨドリがいて、餌を色々食べにくるわけですが、今頃は冬眠しているケモノもいるわけですよ。こんな寒いのに餌集めをしなければいけない生き方もあるわけですが、かといって冬眠している動物を責めることは出来ないわけで、そういう生き方もありますよね。人間の中にも冬眠しているような人だっています(笑)。そういう色んな場面を見ていたら、こちらが正しくて、こちらは間違っているなんていうことはどんどん言えなくなってきます。

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多生の縁――玄侑宗久対談集
玄侑宗久・著

定価:本体524円+税 発売日:2007年01月10日

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