2015.05.15 書評

好漢・火坂雅志を悼む

文: 縄田 一男 (作家)

『常在戦場』 (火坂雅志 著)

 今年、平成二十七年二月二十六日、NHK大河ドラマの原作となった『天地人』で知られる火坂雅志さんが、急性膵炎のために亡くなった。

 まだ、五十八歳の若さであったというのに――。

 体調が芳しくないとは聞いていたが、それも持ち直し、だいぶ元気になられたと聞いていたので、この急逝は、私にとって衝撃といってよかった。

 それを思うにつけ、私の中でまぼろしのように浮かび上ってくる場面がある。

 あれは昨年の秋頃のことであろうか。

 ちょうど元日航ホテルのあった銀座八丁目のあたりを歩いていると、向こうからいつものように着流しに懐手の火坂さんがやってくる。

 私が「やあ――」

 と久闊を叙して、

「このあいだは安部(龍太郎)さんが直木賞をとったから、今度は火坂さんだね」

 というと、

「僕には『天地人』があるからいいよ」

 と、熱血漢の火坂さんにも似合わぬ、余りにも謙虚な答えが返ってきたので、何やら不思議な思いにかられたのを記憶している。

 あれは何だったのだろうか。実際、火坂さんは、安部さんの受賞を心の底から我が事のように喜び、直木賞の二次会で熱い祝辞を述べている。

 私は何か奥歯にもののはさまったような違和感を覚えたが、結局、それが最後の会話となってしまった。

 火坂さんは、本名中川雅志。新潟市出身で、早稲田大学在学中、「歴史文学ロマンの会」を主宰、あまりの熱心さに、永井路子さんの家に押しかけたという挿話を聞いている。

 同学を卒業後、新人物往来社に勤務、「歴史読本」の編集者を経て、昭和六十三年、歌人西行を拳法家としてとらえた異色の傑作『花月秘拳行』で作家デビュー。ところが当時は、そうした異色さが災いしたのであろうか。火坂さんの作品の持つ伝奇性には、鬼才山田風太郎の忍法帖のように、一抹の、いや、時にはそれ以上の歴史的根拠があるのだが、恐らく、ビジネスマン向けの歴史情報小説が跋扈している中、作品の持つロマネスクな面白さは、悔しくも評価されない嫌いがあった。

 それでも彼は書き続けた。

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常在戦場
火坂雅志・著

定価:本体660円+税 発売日:2015年05月08日

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