――小説のアイディアを思いつくのはどんなときですか。
朱川 大体が歩いているときです。あとは電車に乗っているとき。窓の外の景色をボヤッと見ていると、不思議なもので、もしかすると脳が景色を認識するのに引っ張られるのかな、脳の回転が少し速くなる気がするんです。思いがけないことが、ポンと出てきたりして。だから、電車に乗っても本とかあまり読まないです。立ってずっと外をボーッと見てます。
――執筆時のことですが、ラストが見えないで書き始めることはまずないですか。
朱川 いえ、あります。「送りん婆」はそうです。この作品は送り言葉を使うおばさんというイメージがまずあって、それを書きたいばかりに始めたんです。最後のオチははじめに考えてはいたんですが。「摩訶不思議」は、ラストの素麺のシーンに辿り着きたいがために書いたという(笑)。
――え、そうなんですか。
朱川 霊柩車が動かないことも不思議なんですが、本当は一人の男を好きになって敵対してもおかしくない女たちが最後になぜか仲良くなっていることのほうがよほど不思議、というのが僕の書きたかったことなんです。で、素麺というのはみんなでひとつの鉢を囲んで食べるじゃないですか。鍋物でもよかったんですけど(笑)。
――じゃあ、素麺にしたいから、設定があの季節になったと。
朱川 そう、夏にね。
――朱川さんはホラーが得意というイメージを持たれている読者は多いと思うのですが、それについてはどうですか。
朱川 僕は、ホラーのためのホラーというか、怖がらせるためのホラーというのは、本末転倒だと思っています。僕が純粋にホラー畑で勝負したら、とてもかなわない。こういうのもありですよ、と受け取ってもらったほうがいい。人間を書ければ、僕としてはどんな材料でもいいんです。
――朱川さんの中ではホラーというのはどういう位置づけなんでしょう。
朱川 たとえば何かの呪いがあるとするでしょ。その呪いが怖いのではなくて、呪いというものを成立させてしまう情念を持った人間が怖いんです。
――最後に、今回特にお薦めの作品はありますか。
朱川 やっぱり「花まんま」が好きですね。作品を色分けするわけじゃないけど、明るい話としては「花まんま」。ちょっとダークな雰囲気のものとしては、「妖精生物」がいい線かな。でも、同じ物語でも受け取り方は人それぞれですし、ひとつでも気に入ってくれたお話があれば、僕は嬉しいです。
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